深紅の頁｜リアクション

深紅の頁

　きょろりと周囲を見回して、「変な世界」と小さく呟いたジュスト・ランベールはあからさまに作り物の空を見上げる。
「殺し合いをすれば脱出できるっていうけどさー、それって本当かどうかわかんないよね」
　プログラミングされた『言葉』にどれだけ嘘が混じっているのか。
　疑ってかかるならこの嘘のような世界にも違和感を感じずにはいられなくて。
　ジュストはフランスマフィア『ランベールファミリー』の跡取り息子だ。射撃の腕などは所有しているが――できれば殺す以外の攻略方法を見つけたい。
　草木を掻き分け、ドットでも感覚は現実のそれと違わないことを確認しながらジュストは武器庫と書かれた看板を眺めている日暮ねむるの背を見つけた。
「ねむる」
　呼ばれた言葉にくるりと振り返る。何処か眠たげな瞳はジュストを認め穏やかに細められた。
「やあ」
　穏やかな声音は常と変わらない。
　ジュストの考える不殺と同様に、ねむるもできる限りの『殺さず』を徹底しながら、謎を解き明かす為に奔走していた。
　謎を解く為には己の身を守る必要もある。
　武器を確保し、護身用にと所持することは大切だと動き出す彼らは背後でエンカウント音が鳴った事に気づいた。
（ねむる――！）
　顔を上げたジュストにねむるは大きく頷き、走り始める。

　エンカウント！

　宙に浮かんだ文字を振り払う様に全力で走り始めたねむるにジュストは続いた。
　今は全力で逃げ、盤上を整えてから挑めばいい。襲ってくる相手には無力化までは反撃するつもりであったジェイドも一先ずはねむるに従う。
　くるりと振り返り銃の形を手で作った彼は「BANG！」と声を上げた。
　ヒュ、と宙を切った空弾。遠距離から『相手』の注意を引くためにわざと遠巻きに外した空弾に殺人鬼の視線が僅かに逸れる。
「こっちだよ」
　手招くねむるに従い逃げ込んだ家屋にはドットの家具は並んでいたがゲームでよく見る伽藍洞な場所にオブジェクトが存在しているだけであった。
「……家？」
「そうみたいだね。誰もいない……」
　空っぽの室内で肩で息をしながら窓から外を見遣るジュストは未だ何処からか聞こえる戦闘ミュージックに『エンカウント』状態が切れていないのだと認識する。
　武器庫の前でうろつく殺人鬼は消えた相手を探しているのだろう。大袈裟な動きで周囲を見回している。
「……まだいるねー」
「うん。まだエンカウント状態で続いているんだろう」
　その状態の中、ねむるは疑問なんだけど、と切り出した。
「このゲームのプレーヤーは誰なのか」
　彼の論はこうだ。
　仮にこの世界に呼ばれた9名がプレイヤーと認識される存在だとして、敵が殺人鬼一人だけと言うのはバランスに欠ける。
　武器を手にして、『殺されるために襲ってくる村人』が存在したとしても、ゲームバランスは著しく崩れている。
「つまりさ、僕らこそモブエネミーであって、殺人鬼の正体がプレイヤー。
　突然目の前に湧くのはワープスキルや死亡後のランダムリスポーンと解釈するべきなんじゃないかな？」

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