足の痺れた日。｜リアクション

足の痺れた日。

６　温水プールで……

　城山水樹は、この日、寝子島スポーツセンターの温水プールに泳ぎに来ていた。現在大学生の彼女だが、（半ば成り行きで）本格的にモデル稼業を行っている。今は春休みだが、毎日仕事が入っていて、春休みってなんだっけ状態である。
（３年生でモデルはやめる筈だったのに、雑誌の仕事が思った以上に好評で、やめられなくなっちゃったのよね……）
　忙しいのは確かだが、それを苦だとは思っていなかった。去年のクリスマスには新しい恋を見つけ、それを大切に育むこともできている。モデル仕事で埋まる毎日の中でも、デートをする時間を作れることが幸せだ。
　とはいえ、今日のオフにはデートの予定は入っていなかった。
「どうしようかな。何もしないのはもったいないし……」
　モデルは自分の体が商売道具だ。オフの日だからとだらけていたら、すぐにスタイルに影響が出てしまう。
「そうだ！」
　ということで、温水プールまで来たのである。
　競泳水着に着替え、シャワーを浴び、準備体操を済ませてから平泳ぎやバタフライ、背泳ぎなどを一通り、マイペースでこなす。クロールで１時間泳ぐと７〜９００キロカロリー消費するし、アフターケアをしっかりやれば、水泳ほど美肌効果の高い運動はない。
　一通りのメニューをこなした後、水樹はいい気持ちでプールサイドに上がった。その時になって、彼女は異変に気がついた。歩こうとしたら、足がジーンときて動かせない。
　不自然に立ち止まった水樹に、周りの人々が怪訝な顔を向けてくる。だが、彼女は多くの視線を気にする余裕もなく慌てていた。
「え？　嘘でしょ？　足が痺れて……え？　え？　ちょ、ちょっと！？」
　足の感覚がなくなってバランスを崩した水樹は、プールにドボンと落ちてしまった。
「「「「「！！！！！！」」」」」
　様子を見ていた人々が、慌てて水樹に向かって泳いでくる。足が痺れた状態でプールに落ちるのは非常に危険だ。
「はあ……はあ……」
　女性トレーナーに抱えられて、水樹はプールサイドで呼吸を整えた。
「大丈夫？」
「はい……」
　幸い、体に傷はなかった。けれど、自分の体力や運動神経に自信があった水樹は、まさか足が痺れるなんて――と、少し気落ちしたのだった。

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