足の痺れた日。｜リアクション

足の痺れた日。

３　住職の戒め２

タッマーキが追い出された後も、恵御納夏朝の精神修行は続いていた。彼女は、鴉のらっかみ、クローネと対峙した時に冷静でいられるように、と今回修行に参加していた。
（とんでもない事する輩相手にいつ爆発するか分らないから、心落ち着けるために精神修行を……）
　ここ最近、フツウでない事で心乱れる事が多い。その時には激昂して、感情のままに行動してしまうことがあるのだ。
　そういう事を少なくするために心を落ち着けないと、と考えていたが、思った以上に精神修行できてしまった。同席し、そして追い出された彼のキャラクターがあらゆる意味ですごくて、なんでもないですはい真面目にお話聞いてますという表情を保つのがとても大変だった。
　そんなこんなの間に――
（……あ、足痺れた！？）
　なにがなんだかわからないうちに、足が痺れた。ピンチだ。だが、足が痺れても平静を保つことこそが修行なのだ。むしろ好都合である。きっと。恐らく。
　深呼吸をひとつする。
　正座して、精神集中……心を静かに……
　クローネの姿を、あえて脳裏に思い浮かべる。
（……あの黒鴉が来るとかそういう事はないと思うけど、あったらすごく、苛……）
　ばしーん！
「……痛ーっ！？」
　イラっとしたオーラでも坊主には見えるのだろうか。即座に警策が振り下ろされて夏朝はつい声を上げた。坊主は立ち止まったまま、夏朝の背後から離れようとしない。無言のプレッシャーが襲ってくる。
　も、もう一回集中しなきゃ……
「……痛ーっ！！」
　もう一回……
「……痛ーっ！！！！」
　感情のコントロールとは難しいものだ。なかなかうまくいかず、修行は終わる気配を見せない。頑張っている間に何度も叩かれた肩もじんじんと痛いが、それ以上に足がじんじんして泣きたくなってくる。
（う、うぅぅぅぅ……足、崩したい……）
　そう思った途端に、姿勢が崩れた。
　ばしーーーーーん！！
「いきゃーっ！？」
　もう既に、坊主は殆ど夏朝の背後から動いていない。それだけ、彼女の精神は乱れまくっていた。
（うう……きつい……）
　痺れというのは、思ったよりきつかった。いや、痺れを体験しに来たのではないのだが。
（茶道やってる人とか、この姿勢で長く座れるのすごいなぁ……。ちょっと茶道とかに興味が湧い……てきたけどじんじんして……）
　ばしこん！！！
「……あっ……みゃーっ！？」
　この頃には、精神集中という当初の目的は吹き飛んでいた。とにかくじんじんして、痺れに耐えきることしか考えられない。
（これ、寝子島中の痺れを全部集めてあの鴉にぶつければさすがに効くんじゃ…）
　どばしんっ！！！
「……なぁーっ！？」
　そして、警策と痺れのダブル効果という謎のスペシャルスキル発動により、遂に夏朝は撃沈した。

　――外に出て、警策で自分を戒め続けてくれていた坊主にお礼を言う。
「本当に、ありがとうございました」
「今度は、もっと頑張りましょうね」
　坊主は苦笑しながらも、暖かく夏朝を送ってくれた。
　帰路を歩く彼女は、今日の修行のことを思い返す。
（結局、雑念や足の痺れで気が散って集中どころじゃなかったかも……）
　正座じゃあ精神集中に足りないのかな？
　と、今日散々ひどい目に遭ったにも関わらず、夏朝はそんな事を考えた。
「……次は滝行とかにしようかな？」

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