うそつきおーかみの島｜リアクション

うそつきおーかみの島

■水守流のうそつきタイム
「やあ、画面のまえのみんな！　俺は水守流。普通の高校生だ！」
　水守流は朝の洗面台に立つと、鏡に向かって笑顔とサムズアップをキメた。
「……よし、これでいつアニメの主人公になっても大丈夫だ」
　ポーズをやめて、顔を洗う。
　そう、彼はアニメ主人公ではない。
　遅刻遅刻ーとか言いながら走る転校生少女と曲がり角でぶつかったりしないし、空から落ちてきた美少女をキャッチしないし、超能力に目覚めて学校を占拠したテロリストを倒さない。
　アピール通りにごく普通の高校生だった。
　いや、ひとつだけ訂正しておこう。
「お、ポテチシュールストレミング味か……マジっぽいネタじゃん。今日の嘘ゲットゲットー」
　この男。
　人狼である。

　人は食事をしなければ死んでしまう動物である。
　人狼は嘘をつかなければ死んでしまう動物である。
　流はまるで夕飯をコンビニ飯で雑に済ます大学生がごとく、その日の嘘をネットで集めたビミョーなネタで繋いでいた。
　モチロン、吹聴して回ればどっかでバレるので、いつもぼーっとした人に語って聞かせることにしている。
「よう！　今日も元気にやってるか！？」
「あのさあ、シュールストレミング味のポテチ？　みつからないんだけど」
「あったりまえだろ、海外のポテチだぜ。残しとけばよかったなー、お前に喰わせて見たかったなー、カッー」
　額をぺちんとやって語る流に、相手はぼーっとした様子で『それはやだな』と言った。
　顔を見て、嘘がばれていないことを確認する。一次ソースを確認しないというより、確認するほどのことでもないと思われているようだ。
　セーフセーフ。
　しっかしこいつなんでぼーっとしてるんだろ。過剰にぼーっとしてないか？　などと流は思ったが、自分に事情があるように相手にも事情がある筈だ。
「あ、そうだこれ知ってる？　サンマさんがネコハンの新作でコラボするってハナシらしいぜ。ギョーカイ人が雑誌で言ってたんだ」
「ふーん……」

　――その三日後、流は忽然と姿を消しました。

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