ののこがふあーっとあくびした｜リアクション

ののこがふあーっとあくびした

　絢霧満は、眠そうな目をして一人で重い荷物を運んでいました。
　箱には大きく『応援団』と書いてあります。

「あれ、これうちの？」　
　たまたま体育倉庫の前を通り掛かった満は、倉庫の前に置かれたこの箱に反応してしまい、吉田熊吉先生につかまってしまいました。
「おう、お前応援団員か。ちょうどよかった。これが体育倉庫に紛れ込んどったから片付けてくれ」
「え、なんで俺が……」
　整理整頓嫌いで不真面目な満としては不本意だったのですが。
　満に箱を押し付けると、熊吉先生は倉庫の中に消えてしまいました。
「応援団の部室、ここから遠いんよ……」　
　本来なら他の部員たちがいるのですが、折悪しく今日は活動日ではなかったのです。
「せめてもう一人ほしいんよ……」
　誰か手伝ってくれないか、と辺りを見回すと、クラスメイトの骨削瓢がやはり眠そうな目で歩いているのを見つけました。
　汗をぬぐい、荷物を一旦置いて、声をかけます。
「瓢、ちょっと手伝ってほしいんよ。この荷物、応援団の部室まで運びたいんで」
　ダメもとで声をかけてみましたが。
「はあ？」
　瓢は柔和な笑顔で答えました。
「なんであっしがそんなもの持たなきゃならないんだい？　悪だくみだったら相談に乗るけどねぇ」
　マイペースで眠そうな目という共通点がある二人ですが、確かに小柄な瓢に力仕事を頼むのは無理がありました。
「わかったよ……」
　諦めて自分で運ぼうと思った満ですが、ふと閃きました。
「そうか、分身を出せば」
　満が指パッチンすると、その瞬間青い光が目の前に集まり、人の形になりました。
　それはどこからどう見ても満とそっくりな、分身でした。
　分に意志はなく、満と鏡合わせに動きます。
　そのまま二人は、荷物を挟み込むように持ち上げました。
「おぉっ……試したらできたんよ」
　重かった荷物は大分軽くなり、これは使える!　と喜んだ満です。

「へえ、おたくのろっこんは便利だねえ」
　瓢は自分のろっこんのことを思いました。
（進化したはいいがどうも地味だったあっしのろっこん、なんか今日は違う気がするねぇ）
　感じるままに、瓢の中に何かやらかしたい気持ちが湧いていました。
「絢霧はん、さっきは悪かったよぃ。やっぱり荷物運ぶの手伝うよぃ」
　気が変わったとばかりに話しかける瓢の笑みには狡猾さがありました。
「えっ？　ありがとう、でももう……」
　急に態度が変わった瓢に戸惑う満たちに向かい、瓢は独楽を回すような素振りをしました。
「あっしの竜巻に手伝ってもらうよぃ！」
　途端に局地的な竜巻が巻き起こり、満たちと荷物を撒きこみました。
「「うわああああ……！」」
　満と分身は、同じポーズのまま部室棟へ向かって飛ばされていきました。
　瓢のろっこん『悋気の独楽』は他人の恋愛模様を目撃することで竜巻が起こるというものでしたが。
　どうやら、自分の意志で竜巻を起こすことができるように進化したようです。
「これでより幅広い場面で悪戯ができるねぇ」

　幸いなことに、満も荷物も無事に部室棟近くに着地しました。
「ひどい目にあったんよ……」
　元々ボサボサな頭を、さらにボサボサにしながら満はぼやきました。
　ほどなく分身は消え、目撃した普通の生徒たちの間では竜巻は春の異常気象ということで片づけられたのでした。

　