ののこがふあーっとあくびした｜リアクション

ののこがふあーっとあくびした

　仙藤紫は、寝子島図書館で本を閲覧していました。
　大学入学を目前に控えた、春休みのある日のことです。
　入学してからは大学の図書館を使うことが増えるでしょうから、この次ここに来るのはいつになるでしょうか。
　そんなことを思いつつページを開いた紫は息を飲みました。
　当惑して美しい眉を思わずひそめます。
　その本はひどい状態でした。いくつかの行がマジックで上塗りされたりカッターで切り取られたり……
（ひどい。みんなの本にこんなことをするなんて）
　うっかり破いてしまうならともかく、これは明らかに故意でしょう。顔をしかめたくなるくらい悪質なイタズラでした。
（職員の人に報告しないと……。こんなにされて可哀想に）　
　思わず指先でイタズラされた箇所をなぞったとたん、それは起こりました。

「えっ……？」
　見えるはずのない文字が、頭に浮かびました。
　消えている文字列が読み取れるようになったのです。
　紫のろっこん『指先スキャン』と同じような効果でしたが、以前は時間が経過して文字がつぶれたりかすれるなどして読めなくなった文字列しか読み取れなかったのはずですが……。
　驚いていくつかの部分を指先でなぞると、塗られた部分も切り取られた部分も、やはりクリアに読み取れるのです。
（これって使い勝手がよくなった、ってことかしらね……？）
　古いものにしか使えなかった今までと違い、かなりありがたい変化です。
（敗れた紙とか、消した文字とかはどうなのかしら？）
　これからいろいろと試してみたいと思いつつ、紫は改めて図書館の職員のいるカウンターへ向かい、声をかけます。
「あの、すみません……」
　本がいたずらされていることを報告するために。
　

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