Ｓｅｅｄ～人を喰う種｜リアクション

Ｓｅｅｄ～人を喰う種

【調査その１：九夜山の小屋】

　九夜山の一画にある、岡崎史郎が住んでいた小屋の調査は、北里雅樹と伊藤緑、神野美野梨の三人がやることになった。
　先頭に立って小屋の中に入る雅樹のあとに、緑と美野梨が続く。
　雅樹が手にしたＬＥＤ懐中電灯の光に照らし出される室内は、どこもかしこも埃と蜘蛛の巣にまみれていた。
　ちなみに雅樹は、最初は手伝うつもりなどなかったのだが、この小屋が以前に食費を浮かすために山菜やキノコ狩りに出かけた場所の近くと知って、気が変わったのだった。
（俺、もしかして、変な薬で汚染されたキノコとか食ってた？）
　と不安になったためだ。
「ここが一番怪しいのよね。住んでたことがあるなら、資料の欠片でもあると思うの」
　緑は言って、手にしたライトで周囲を探るように照らす。
　一方美野梨は、手袋とマスクをして、懐中電灯に照らし出される室内を、黙って見回していた。
　三人は、まず小屋の中を一通り見て回る。
　中はそれほど広くはなく、入口を入ってすぐのリビング兼キッチンの他は、岡崎の寝室兼書斎と、トイレと浴室があるだけだ。
　どの部屋も、埃と蜘蛛の巣がひどい。
　再びリビングに戻って来た三人は、手分けしてノートを探すことにした。
「私は、この部屋を探してみるわ」
　言ったのは、緑だ。
「それじゃ、俺は寝室を調べてみる」
「私も、そっちを一緒に探すわ」
　雅樹が言うのへ、美野梨もうなずき踵を返した。

　寝室に入った雅樹と美野梨は、本棚や引き出しを調べ始めた。
　といっても実は美野梨が探しているのは、ノートそのものではなく、鍵だった。
　彼女は、大事なものなら鍵がかかった場所に保管されているはずだと考えていた。なので、まず鍵を探そうと思ったのだ。
　ちなみに彼女は、ここに来る前にアンゲリシュとＢ社、そして岡崎についてできる限り下調べをしていた。
（なぜ、彼は寝子島を住まいに選んだのかしら）
　話を聞いて、最初に彼女が不思議に思ったのは、それだったからだ。
（人目を避けたかったのだろうけど、ただ隠れるだけなら、街中の方が目立たない気がするわ。……もしかしたら、寝子島で研究を続けていたんじゃないかしら）
　そんなふうにも思ってみた。
　だが、岡崎について調べてみて、彼が寝子島を住まいに選んだ理由が、そこに姪の佳代子が住んでいたからだと、彼女は知った。
　佳代子は岡崎の兄の娘だったが、その兄は若くして亡くなり、ちょうど彼がＢ社を辞めたころにはその妻――つまり、佳代子の母も死亡していたのだ。
　おそらく、一人きりになった姪を放っておけず、彼は寝子島に移り住んだのだろう。ただ、一緒に住まなかったのは、すでに彼女が成人していたためだと思われた。
　そんなことを思い返しながら、美野梨は埃まみれの棚や引き出しを、一つ一つ調べて行く。
　一方、雅樹はベッドの下やその傍に置かれたタンスの裏側などを丹念に調べていた。
　普通に見るだけでなく、ろっこん『精密視力（マイクロ・アイズ）』を発動させ、何かを隠している痕跡がないかを、仔細に調べて行く。
　もちろん、埃のせいで痕跡を見逃してはならないとばかりに埃をかき分け、時には軍手を脱いで指先で床や壁、タンスの背中やベッドの底などを探ってみたりもしていた。

　一方、リビングに残った緑の方は。
　壁に耳を当て、拳でコツコツと叩いてみては、音の反響をたしかめていた。
（重要な資料みたいだし、棚とか引き出しなんかには、入ってなさそうね）
　二人が寝室の方に向かったあと、リビングを見回して、彼女はそう考えた。
　床や壁をはがして探したいところだが、それはさすがに自分一人では無理だろう。
（映画みたいに、どこかに隠し通路とか隠しドアとかないのかしら）
　ふとそう思い、結局この方法におちついた。
　壁の向こうが空洞ならば、音は響いて聞こえるはずだ。
　彼女は一人地道な作業を続けるのだった。

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