せんせいといっしょ：牛瀬先生編｜リアクション

せんせいといっしょ：牛瀬先生編

序：お好み焼きパーティーしよう！

　――３月某日（土曜）・旧市街

「先生の家ってここかな？」
「うん。ほら、表札に『牛瀬』ってあるでしょ？」
　のんびり歩いてきた新田亮と日暮ねむるは、目的地に到着し少し安堵する。今回、２人はボクシング部の顧問である牛瀬巧の家で行われるお好み焼きパーティーにやって来た。
　亮は部活の後、巧に誘われて今に至る。人見知り属性持ちの彼は当初躊躇ったものの、「せっかくのお誘いだし……」と参加を決意した。
　その話に「亮くんらしい」と相槌を打ったねむるはというと、ご馳走が食べたいほかに、巧の息子の１人、ひかると遊びたいな、と考えたのもある。
　２人が早速インターホンを鳴らすと、しっぽ髪を弾ませた三男坊、ひかるが「いらっしゃいませ！」と元気よくお出迎え。挨拶もそこそこに、父親である巧を呼んでくれた。
「とうちゃん、寝子高のお兄ちゃんたち来たで！」
「今いくわ」
　部屋の奥から来た巧は、笑顔で２人を出迎える。そして適当にあがって、と勧めてくれた。
　通された部屋には、先客がいた。猫鳴館から来た北里雅樹と綾辻綾花である。
「おじゃましまーす♪　ん？　まだ２人？」
「そうですね。でも、まだまだくるみたいですよ？」
　ねむるの問いかけに、綾花がふわりと楽しそうな笑顔で答える。その傍ら、雅樹は亮となにげなく挨拶しつつこんな事を思っていた。
（美味しいものをしっかり食べるにはまたとないチャンスだ。無駄にするつもりはないな）
　内心でそう笑う雅樹。父親と折り合いが悪く猫鳴館に身を寄せている彼は、先日補習授業を受けており食料調達が出来なかった。だからこそ、担任である巧のお誘いが嬉しかった。
　本来色々あって金欠な彼だが幸いにも宝くじに当たり、臨時収入を得た。そのお金を使って色々買ってきてくれたらしい。まぁ、巧や綾花たちには「バイトの臨時収入」と言っているが。
　一方の綾花は綾花で愛らしいマカロンをお土産に持ってきていた。春らしい桜色をしたそれに、「食べるのがもったいないな」と思わず零す亮。甘いお菓子が好きらしい彼は少し愛らしい笑顔を零しそうになっていた事をここに記すが、彼の名誉のために目撃したねむる達は黙っておく事にした。

　４人が何気なく話している間にも参加者は続々と集まってくる。ポニーテールを弾ませてやってきたのは新聞部の椿美咲紀。その傍らには同じく新聞部の八神修もいる。
「お好み焼きか。島に来るまではあまり食べた事が無いんだ。友達に紹介されたときは、本当に美味しかったな」
　幼少期は食べていたかもしれないが、思い出せない修は心なしかわくわくしているように見える。そんな様子に美咲紀は「今日は楽しみましょう、シューくん♪」と笑顔を零す。
　自分も楽しみな様子の彼女だが、今回はそれだけではない。目的を内心で確認すると、美咲紀の表情が少し引き締まる。
「あのっ、先生！　今回の様子や美味しいレシピを寝子高新聞の記事にして宜しいでしょうか？」
「あぁ、かまわんよ。せやけど写真に関しては参加者さんの許可をとってな？」
　巧から許可が出ると、美咲紀は「ありがとうございますっ」と元気に礼を述べる。修もまた一緒に頭を下げ、２人で参加者に写真掲載の許可をとる事にした。
　その次に来たのは水守流と本居陽毬の【食い友】コンビだった。巧から話を聞いた流はその時点で「ダチに食い気があふれてるやついるんすけどそいつにも声かけていいっすか？」と陽毬を誘う事を決めていた。
　巧とあまり話した事がない陽毬は、ほんのちょっぴり緊張しつつもきっちりと自己紹介し、丁寧に礼を述べた。両親からそのあたりしっかり躾けられている事が伺え、牛瀬夫妻は「しっかりしたお嬢さんだね」と微笑ましく頷いた。
（こうしてみると、そうなんだよな）
　普段の食欲旺盛でごはん一直線な姿を思い出し、流は思わず苦笑する。そうしているとねむるの姿を見つけ、流はそっと鞄に忍ばせた物を考えるのだった。

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