うみねこで春の味覚を｜リアクション

うみねこで春の味覚を

●開店準備

　限定メニュー開始当日早朝。
「おはようございます！」
　綾辻綾花は、開店準備をすべく早めに『うみねこ』に来た。
「おはよう、嬢ちゃん。張り切ってるな」
　定食用のサワラを捌きながら、カウンター越しに話しかける魚戸ケンゾウ。
「綾花ちゃん、早いね。忙しくなりそうだけど頑張っとくれ」
　魚戸ハルコは、茹でて水にさらした炊き込みご飯に使う山菜を切りながら綾花に声をかけた。
「はい、頑張ります！　私、店内の掃除をしますね」

　綾花がテーブルを拭いている時、鳴鏡院総悟が慌てて店内へ。
「お、おはよう！　早めに来ようかと思ったんだけど寝過ごして……」
　どれくらい忙しくなるのだろうと考えていると、寝付けなくなってしまったようだ。
「おはようございます、総悟くん。私も今、来たところだから大丈夫ですよ」
　良かった……と胸を撫で下ろした総悟は、店内の掃除を手伝う。
　テーブルを拭いたり、床を掃除したりと店内清掃を終えると、綾花が限定メニューのお知らせのチラシを作りましょうと言った。
「店内だけじゃなくて、外を通る人にも見てもらえるようにしようと思います。外の壁にも貼りませんか？」
　店内には限定メニュー名と、総悟がデジカメで撮影した料理の写真を張り付けたお知らせがある。
　なので、外に貼るのは限定メニューの告知だけに。
　お知らせを書くのに使った用紙で、綾花と総悟が手分けして書く。
　春の雰囲気を醸し出すべく、綾花はチラシの四隅に桜のイラストを。
　良いカンジに仕上がったチラシは、入口には綾花が。高い場所には総悟が貼り付けた。
「後は、開店時間を待つだけですね。私、ハルコさんのお手伝いをしてきます」
「僕も手伝うよ。料理は上手じゃないけど」

　２人が店内に入ろうとした時、新田亮が「手伝いに来た」とやって来た。
「ケンゾウさんにご馳走になっているからな。限定メニューとなると忙しくなるだろう」
　頼もしい助っ人に、総悟は心強くなった。　

　照り焼き、お造りに使う魚はケンゾウが手早く捌き、ハルコは照り焼きに使うタレ作り。
　綾花と総悟は、かき揚げに使う野菜を切ったり、海鮮鍋に使う食材の準備をしたり。
　亮はケンゾウの指示を受けてテキパキと手を動かすが、下拵えとはいえ、限定メニューの調理なので多少戸惑っている。
（ケンゾウさんほどの腕前じゃないが、一生懸命、手伝おう）
　持ち前の器用さと長年培った経験は、補助役として立派に手伝っていた。

　魚戸夫妻とアルバイトの２人、亮が開店に向けて頑張っている頃、恵御納夏朝は、猫を見るために寝子島漁港付近を散歩していた。
「たくさん見れて満足……あれ？」
　猫が群がっていたのは、大衆食堂『うみねこ』の前だった。魚の匂いに釣られて集まったのだろう。
「大衆食堂『うみねこ』……懐かしいなぁ」
　昨年、新装開店の手伝いをしたことを思い出した。
　準備や開店当日の手伝いで忙しかったが、充実した日々だったことは今でも覚えている。
「折角だし、何か食べていこうかな……？」
　と思ったが、開店にはまだ時間があるので猫を見る散歩をして時間を潰すことに。
　猫達だが『うみねこ』付近をやたらうろついている。
　どうしてだろう？　と少し不思議だったが「魚料理があるから……かなぁ」ということに。
　
　『うみねこ』の限定メニューは、人間のお客様だけでなく猫達も惹きつけてしまったようだ。

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