春休ワンデイズ｜リアクション

春休ワンデイズ

■真境名アリサのささやかな春休み
　長期休暇というものとオサラバしてからどれだけの月日がたっただろう。
　学生だった頃のアリサには夏休みもあったし冬休みもあった。春休みはほかと比べて過ごしやすくて、特に中学や高校の節目には卒業旅行だといってずいぶんはしゃいだものだが……。
「大人になると土日すら休めなくなるとはねえ。っていうか、実質２４時間営業じゃないの」
　ガールズバーの副店長。
　偉いのか偉くないのかで言えば偉いのだが、とにかくもって暇が無い。
　店内でおこるあらゆる出来事に行動を起こさねばならないし、それは常連客への日常的な気配りから始まりスタッフ同士の人間関係や水道管の詰まりやロッカールームに出た虫に至るまでてんやわんやの毎日である。
　なんだろうなあ。ブラック企業のＯＬが嫌で辞めたはずなのに、ある意味もっと忙しくなった気がする。
　ベルトコンベアの前に常に立ち続けるのが前だとすれば、全てのベルトコンベアを正常に動かし続けるのが今である。なるほど世の中っていうのは隙の無い作りをしているものだ、などと。
「が、そんなあたしもついに……！」
　携帯電話のメールを確認し、グッとガッツポーズをとる。
「ついに、一日まるごとの休日がとれる！」
　それでも問題が起きれば直行せざるをえないので近場をうろつくことになるが、それでも、それでも、気を休める時間があるというのはよいことだ。
「文字通り身体が資本の仕事だからね。ガリガリのガサガサになったら元も子もないっしょ」
　というわけで休息だ。
　敷いた布団に横になって、このあとどうしようか考える。
　肉体が疲れているわけではないので、眠るという選択肢は違う。とはいえ遠出も出来ないし……。
「そうだ。にゃんことふれあう時間がなかったなあ」
　ぼんやりと思い出したのは、島のあちこちで見かける地域ネコたちである。
　忙しく働くうちに見かける機会が減ってきた。
　外を散歩するついでに彼らの様子を見てみよう。

　かくしてやってきたるは猫又川。
　川辺をふらふらとあるきながら、集会中のにゃんこを見つける。
　この辺りは寝子島のよいところで、基本的に優しくされているにゃんこたちは集会に人が入ってきてもあまり警戒しないのだ。
　どころか、川辺を歩くアリサを見つけて横につき、『こっちで集会があるからおいでよ』とでも言うように案内してくれるほどである。
「うん、みんな元気そうでなにより」
　花に紛れて寝転がるにゃんこたち。
　ありさは彼らに混じって腰を下ろした。
　うつらうつらするにゃんこたちの表情をみているうちに、アリサもまたうつらうつらとし始める。
　そんな、アリサのささやかな休日の出来事である。