春休ワンデイズ｜リアクション

春休ワンデイズ

【回想】美術館にて

■本条小萩と花椿涼太郎のうつくしき春休み
　宇宙よ、本条小萩を知っているか。
　ギャラクシークラスにカワイイ美少女、こはぎちゃんである。
　こはぎちゃんはその宇宙的かわいさゆえに孤高の存在であり得てしてこはぎちゃんギャラクシーについていけなくなる人々が続出するのはもはやサダメである。運命と書いてサダメである。
　なので普段は映画館も美術館もなんなら焼肉屋も一人で行くこはぎちゃんなのだが今日は違う。
　なんと。なんとである。
　こはぎちゃんの宇宙的かわいさを理解する男が現われたのだ。
「やあ本条くん。美術館のチケットを譲って貰ったんだが……どうかな、僕と一緒に行かないかい」
　二本指でチケット挟んで言う涼太郎の姿に後光を見たのは言うまでも無い。
　実際ちょっと光ってたし。
　ちょっとというかかなり光ってて、周りの人がサングラスを着用してたし。
　いきますいきます！　しかしなぜ小萩に！？
　そう目で述べた小萩に対して、涼太郎はフッと笑った。
「実家のお店に来てくれたお礼、ってところかな」
　バラの花びらが舞ったように見えた。
　っていうか花びらが舞っていた。
　駄菓子で雇われたクラスメイトが竹籠から撒いてウチワで飛ばしていた。あとサングラスもしていた。

　そんなこんなで。

「美術館に僕――降臨」
「同じく！」
　チケットを係員に切らせて、脳内レッドカーペットを歩く涼太郎。
　ハリウッドの祭典を幻視した小萩は同じくハリウッド女優なみの堂々としたウォークで入り口のカーペットを歩いた。
「ごらん本条くん。なんと美しい絵画……」
「分かります。分かりますよ。美しいものは美しいものを知るというやつですね。けどやっぱり、小萩の存在感にはかないませんね……！」
　『カッ！』という謎の効果音と集中線を出しながらぐいっとのけぞってみせる小萩。胸を張りすぎてもう天井に目線がいっちゃってる小萩ちゃん独特のポーズである。
　自分に浸るとき、上を向くのが小萩ちゃん流。対して花の香りを楽しむように下を向くのが涼太郎流である。
　いい感じのアシンメトリーであった。
　見る者が見れば二人に後光が差して見えただろう。
　っていうかちょっと光っていた。
　ちょっとというかかなり光っていた。
　美術館を訪れた観客と警備員がサングラスをかけていた。
「ふむっ？　この光はまさや涼太郎さんの存在感！？　そんざいかんのかがやき！？　――いな、美のオーラですね！？」
「そう言っても……過言では無いね」
　決め顔で言う涼太郎である。
　が、次の瞬間
「美術家さんたちはいい時代に生まれたよね。こんな美しい僕たちをモデルにすれば、後世に残る作品を生み出せるだろうから。ハッ――本条くん！？」
　気づけば小萩が女神像に見えていた。
　それにちょっと裸婦像にすら見えていた。
　っていうか実際に半分脱いでいた。
　観客と警備員は両手で顔を覆っていた。
「どうですか！　小萩のうつくしいにくたいび！（二重表現）　後生に残ると思いませんか！」
「残る……残るとも！」
　だくだく鼻から血を流しながら親指を立てる涼太郎。
　そして二人は……！

「おいだされました」
「おこられてしまったね」
　美術館から離れたカフェのテラス席で、『やれやれ』みたいなポーズで並んでいた。
　だが失敗でめげないのが二人のいいところである。どころか『失礼、美しすぎたなら謝ります』くらいの受け取り方である。
　気を取り直してのトークタイムに入ることにした。
「美術作品を鑑賞すると、こちらも創作意欲がわくよね」
「わかります！　小萩も次回作の構想がわいていたところですよ……！」
　ふふりと笑う小萩に、涼太郎が目を光らせた。
「次回作ッ？　つまり本条くんには既に作品があるという……」
　同じくギラリと目を光らせる小萩。
「あります！」
「あるのかっ！」
　テラスでの会話にしてはギラギラした二人である。
「その名も――『スーパーレジェンド伝説ko-ha-gy』」
「レジェンド伝説（二重表現）……！」
「小萩を主人公にした魔法少女漫画です！」
「漫画……！」
「舞台化もしたのです。小萩主演で！」
「舞台化……！」
　クッ、と目頭を押さえる涼太郎。
「自らの美しさを世に広く伝えているんだね。君がそんな努力をしているというのに僕ときたら……決めたよ。僕も後世に残る作品を作ってみせよう！」
「小萩たちは存在そのものが芸術ですからね！」
「そうと決まれば、輝こうじゃないか！」
「はい……！」
　相乗効果でテンションがどこまでもあがっていく二人である。
　カフェから追い出されるのも、時間の問題であった。

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