春休ワンデイズ｜リアクション

春休ワンデイズ

■椿美咲紀のあふれる春休み
　真面目に勉学に励んでいる学生諸君！
　春休みくらい教科書を閉じて、好きなことをしたまえ！
　……というテレビかラジオのワードに、美咲紀は元気よく返事をした。
　いえっさーとか言いながら問題集をそっと閉じ、引き出しにしまい、代わりに引き出しの奥の方から黒いノートを引っ張り出した。
　名前を書いた人が死ぬノート、ではない。
　美咲紀の暗黒面が具現化したノート、でもない。
　開けばそこには無数の名前。
　名前と名前がやじるしでつながり、時としてハートマークや星マークがちりばめられたそれは美咲紀専用創作ノート……のひとつ。
「今日は、妄想にはげむことにするのですよ」
　紙面をさらりと撫でたなら、美咲紀の脳裏に波の如く無数のイメージがわき上がるのだ。

　ＢＬとホモセクシャルの違いは何かと問われれば、タンポポとダンデライオンくらい違いが見いだしづらい。人によっちゃ同じものじゃんと言われかねないものである。
　しかし違うのだ。
　たんぽぽが小太鼓を意味する赤ちゃん言葉であるように、ＢＬはただのボーイズラブの略語ではないのだ。
　たとえば――ＢはブリリアントのＢ。ＬはリバティのＬ。
　輝きの解放。つまり、自らの思う輝かしい光景を手先を通して現実の一端へと移し込むことをさすのだ。
　なにいってんのかわかんないと思うけど、書いてるほうも若干わかんなくなってきてるから大丈夫だ。そういうものだ。
「フフフ、見目麗しいイケメンがわたむれるさまは良いのです……シチュエーションはなにがいいですかね。ちょっとひねって監獄にしましょう。クールな罪で収監されたイケメンたちが四人部屋で出会って互いを知っていくのです。一見悪者に見える彼らにきらめきが隠されているのです。土に覆われた宝石のように。ふふふ、ふふふふふ……！」
　美咲紀の目からなんか怪しい光が漏れ出した。

　美咲紀の創作はもっぱら文字である。
　それも漫画の一コマのようなシーンや台詞を美しく書き出すために周囲を飾るという作り方をする。まさしくブリリアント――宝石を美しく見せるための土台作りである。
　ある意味、美咲紀の創作はジュエリー作りに似ている。
　使いたい宝石を選び、飾り立てるデザインを決め、あとは熱心に彫り込んでいくという作業である。
　すげー地味な方面でいうとアプリケーション作成にも似ていた。必要な機能のためにメソッドグラフを作り地道にコードを打ち込んでいく作業である。
「そうだ！　冒険譚っぽくしましょう！　そのためにはこのキャラとこのキャラに愛が必要ですよね。いやまってください！　この場合全員に別々の愛の形が……はうあっ！」
　チョコレートの食べ過ぎで軽く鼻にきていた美咲紀は顔を覆ってのけぞった。
　そうこうしていると家ネコのスノウが机や膝にのってかまってアピールをしてくるので、適当にかまいつつ美咲紀はペンを走らせた。
　妄想は、はばたきをやめない。
　美咲紀のなかの輝きをかき上げる頃には、きっと朝になっていることだろう。