【ホワイトデー】学生達のWhite Day!｜リアクション

【ホワイトデー】学生達のWhite Day!

　５年４組の放課後は、バレンタインの時と同じようにわいわいきゃいきゃいと女子が集まりかしましかった。
　そう、とっても女子同士が仲の良いこのクラス。ホワイトデーにもやっぱりみんなで集まって、バレンタインに交換し合ったチョコのお返しに、今度はクッキーやキャンディなどをプレゼントし合っているのだ。まあ、要はホワイトデーを口実に美味しいお菓子を食べてお喋りを楽しもうというのである。

　手先が非常に器用な佐藤瀬莉は、用意したキャンディとは別にクッキーを自分で焼いて来ていた。
　勿論そこら辺のありふれた型抜きクッキーなんか作らなかった。将来時計職人になりたいと思っている瀬莉のクッキーは、時計の歯車や懐中時計なんかがかたどられているのだ。クッキーの真ん中には色とりどりのジャムを入れたりして、見た目もきれいで可愛くなるよう狙ってある。そしてもちろん、食べておいしいことは当然だ。
　そして包装にも力を入れた。瀬莉のクッキーの包みは、開けてしまうのが勿体ないくらいの可愛らしさだ。ここら辺が瀬莉の友人をして、
「職人魂を感じさせるよね、瀬莉って……」
と言わしめる要因だろう。物作りには一切の手抜きも妥協も許さない１１歳の女の子。……何だか末恐ろしかったりする。

　しかし、ある友人がテーブルに並べられている瀬莉のクッキーを手に取り、半分悲しそうに溜息をついた。
「……手作りに関しては天才的なのに、どーしてこんなに字が残念なのかしらね」
　その言葉に、ちょっと得意げにクッキーを勧めていた瀬莉がぐっと詰まった。
　クッキーの包みに１つ１つ付けられている、小さなメッセージカード。そこに書かれている文字は……美しい包みとは見事に反比例している汚さだった。
　なぜこんなに器用な瀬莉が、字だけは滅茶苦茶に汚いのだろうか。それは永遠の謎である。
　周囲の評曰く、『いかにも字が汚そうな男子でも、もう少し綺麗な字を書く』。以前は悪筆すぎて、何とテストで０点を取ったことがあったくらいだ。さすがにこの時は、普段は一人娘に甘い両親も鬼のようになり、ペン字と書道の家庭教師をつけられ特訓させられる羽目になった。
　このおかげで以前よりは断然マシになったのだが、それでも手書きで字を書くのは、瀬莉にとってコンプレックスを刺激されることこの上ないようだ。

　まあそれはともかくとして、５年４組の女子会は、みんなの持ち寄った美味しいお菓子と共に、非常に楽しく進んでいく。すると、事あるごとにいつも何だか瀬莉に無茶振りする（例えば、チョコの時計を作れ、とか。例えば、ロボット雛人形を作れ、とか）１人の友人が、瀬莉のクッキーをさくさくと食べながらあっけらかんと言った。
「ねぇ瀬莉。クッキーでゴーレム作れば！」
「はあ？！」
　危うくむせそうになる瀬莉。思わず「いきなりファンタジーかよ！」とツッコミそうになる。
「……あ、あんたねぇ……」
　どんだけ無茶振りするんだと半分瀬莉は感心するが、頭の中ではついついクッキーで出来たゴーレムをもう想像し始めた。
（クッキーじゃ、ゴーレムの強さって出にくくない？）
　思わず眉をひそめた瀬莉は、もう真剣な顔で友人に言った。
「クッキーでゴーレムって……なんか弱そう！　せっかくならもっといいので作りたい！」
「お！　瀬莉の職人魂が疼き始めました！」
　横から別の友人が茶々を入れる。それでもそこから彼女達は、いかに食べ物で空想世界を作っていくかで盛り上がり始めた。
　いろいろなお菓子や果物で、魔王だの勇者だのを作ってみよう。お城はどうする？　森はやっぱり野菜かな？
　ひょんな事から広がり始めた彼女達の空想。