【ホワイトデー】学生達のWhite Day!｜リアクション

【ホワイトデー】学生達のWhite Day!

　無事に友人達にお返しを配った羽生碧南がバスケの練習に励む姿が、体育館にあった。

（やっぱり心配事がないと、調子いい～！）
　ダムダムと軽快なドリブルの音を体育館に響かせながら、碧南は縦横無尽にコートの中を走り回っていた。
　どんな一流選手だってメンタルを克服する事はなかなか難しい。裏を返せば気分が乗っている時は本人も止められないくらいの力を発揮するという事だ。
　本日の碧南は面白いようにシュートが決まる。他の部員達を翻弄しながら、碧南は気持ちのいい汗を流した。

「ありがとうございましたーっ」
　本日の練習が終了した。
　碧南は鼻歌を歌いながらご機嫌で後片付けをする。すると体育館の入り口で傾いた陽の光を背負っている人物がいた。
「やあ、羽生くん」
　ちゃっとワカメ頭の鷹取洋二が碧南に向かって手を挙げた。
「先輩！　どうしたんですか？」
　碧南は驚いて洋二に駆け寄る。洋二は無駄に歯を白く光らせながら言った。
「もう部活は終わったのかい？　もしよければ途中まで一緒に帰ろうかと思ってね」
「あ、はい！　もちろん！　……えっと、少し待ってて下さい！」
　碧南は自分の着ているユニフォームをぎゅっと握り締めた。こんな汗まみれでは先輩に失礼だ。急いでシャワーを浴びて制服に着替えなくちゃ！

　乙女ゲーだったら場面転換５秒で済んだだろう。しかし碧南は現実世界の人間だったので、洋二の許に行くまでに１０分ほどかかった。それでも乙女の支度時間としては充分合格点だ。２人は並んで歩き出した。

「僕はバスケの事はよく分からないが、一生懸命プレイする人の姿というのは美しいものだね。格好良かったよ、羽生くん」
「あ、ありがとうございます」
　洋二のストレートな褒め言葉に碧南はその肩を丸め大いに照れた。どの言動もナルシストぶりが入っている洋二としては特に意味はないのだろうが、嘘をつくタイプではない。きっと本当にそう思ってるんだと思うと、碧南はちょっと恥ずかしく、そして嬉しかった。
　そんな碧南の様子に気付く事もなく、マイペースに洋二は鞄からラッピングされた袋を取りだした。
　紫色の袋に金色のリボンが結ばれている。独特のセンスに碧南が目をぱちくりさせていると、洋二が言った。
「これは羽生くんへのお返しだよ」
「え？！」
「バレンタインに駄菓子の詰め合わせをくれただろう？」
「あ、はい」
　洋二の言葉に碧南は頷く。確かに駄菓子好きの洋二のために、チョコ系の駄菓子をたくさんバレンタインにあげたのだ。ただ、物が物だけに、お返しは全く期待していなかった。洋二が喜んでくれればいいなとしか思っていなかったのだ。
　洋二はフッと微笑んだ。
「あれは素晴らしかった。　だから僕もちょっとお返しを考えたんだ。開けてみてくれ」
　碧南は言われるまま受け取った袋のリボンを解く。中にはたくさんの駄菓子のキャンディが入っていた。
「僕オススメのキャンディだよ。定番のコーラ味、このシュワシュワするサイダーのもいいんだ。あ、これは一緒に食べると味が変わるという面白い物でね……」
　水を得た魚のように生き生きと説明する洋二。とても彼らしいお返しに「ありがとうございます！」と碧南は笑顔で言った。

　洋二は桜花寮まで碧南を送ると、気障に手を挙げ猫鳴館に帰って行った。
　碧南は彼に手を振りながら気持ちが高揚している自分に気が付いた。
（何で、かな？　今日バスケが調子良かったから……？）
　んー、と考えながら碧南は桜花寮の敷地を歩く。そして自分の寮の前まで来た時、その足が止まった。
　たくさんの駄菓子。気障な洋二の笑顔。碧南の中で彼は面白い先輩というだけだったのに。
　今彼女の心を占める感情の名は……恋心だった。

「……あ……私……先輩のことが……好き……」
　突然湧き上がった名前の付いた想いに戸惑うように、碧南は呆然と呟いた。

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