【バレンタイン】学生達のValentine's Day!｜リアクション

【バレンタイン】学生達のValentine's Day!

●気の合う２人

「たっかとっり先輩！」
　階段の踊り場で鷹取洋二の姿を認め、羽生碧南が元気に声をかけた。おや、とわかめのような天パの重い前髪から洋二の切れ長の目が覗く。その目がああ、と少し優しい色を帯びた。
「羽生くんか。どうしたんだい？」
「えへへ、先輩こんにちはー」
　碧南は後ろ手に何かを隠しながら、洋二の傍に歩み寄った。

「わ、先輩随分チョコ貰ってますねー」
　碧南は洋二が手にしている様々な紙袋を見て驚いた。洋二は大して気にする様子もなく、「そうかい？」と少しだけ首を捻った。
「何だか無差別に配り歩いている女子もいたからね。野々くんや七夜くんの姿も見たよ」
　たくさんのチョコを味見出来るからなかなかいいイベントだよね、と洋二は手元の可愛らしい袋からひょいとチョコをつまみ、口に放り込む。そしてもぐもぐと味わい、
「……これは洋酒が入ってるな。僕としてはミルクチョコの方が駄菓子っぽくていいのだが」
と真面目に言った。
「あはは、流石は駄菓子評論家」
　碧南は思わず笑ったが、内心ちょっとだけ心が騒いでいた。……これだけの数、ほんとに全部義理チョコかな？
　どうしてこんな事を思うのだろう。目の前の先輩は愉快でちょっとお茶目な人。自分とは波長の合う者同士の関係なはずだ。碧南はふるりと首を振ると、笑顔で後ろ手に持っていた包みを洋二の前に差し出した。
「鷹取先輩、私からも……チョコをどうぞ！」

　碧南の包みを開けると、洋二の目が輝いた。
「おお……！　これは……！」
　夢中で包みの中を見始めた洋二見て、碧南は内心でガッツポーズを取る。やはり自分のチョイスは間違ってなかったと思いながら、嬉しそうに洋二に言った。
「はい、駄菓子チョコの詰め合わせです！」
　そう、碧南は駄菓子好きの洋二のために、様々なチョコ系の駄菓子を選んで詰め合わせたのだ。
　これは見事に洋二のハートを鷲掴みにしていた。洋二は袋から様々なチョコを取りだしては、
「ほう、ニャロルチョコはバレンタイン仕様か。お、じみコーンもあるぞ。そうそう、このたいやきのはウエハースとのハーモニーが絶妙……」
とうっとりしながら見つめている。
　その様子を碧南は楽しく眺めていた。……やっぱり、面白い先輩よね！
　全てのチョコをチェックし終えたのか、ようやく洋二は袋から顔を上げ、頬を上気させながら碧南を見た。
「いや、本当に素晴らしい物ばかりだ……ありがとう、羽生くん」
「どういたしまして。喜んでもらえて良かったです」
　いつも面白い先輩だが、こんな風に目を輝かす姿は何だか子供のようで可愛らしい。碧南は心の奥がくすぐったくなるのを感じていた。

「そうだ、先輩が他にもらった義理チョコ見せてくださいよ」
「え？　構わないが、羽生くんの物には遠く及ばないよ。ああ、でも面白い物があったな……」
　そう言ってゴソゴソと手元を探り始めた洋二。興味津々で覗き込む碧南。
　２人は仲良くバレンタインの放課後を過ごすのであった。