【ホワイトデー】学生達のWhite Day!｜リアクション

【ホワイトデー】学生達のWhite Day!

　下校前に少し時間があった伊賀解理は、ふといいんちょ……北風貴子の様子が気になった。
（まあ、あの人は性格上イベントでも通常運行だと思うけど！）
　通常運行の貴子が、放課後はどうしてるか。解理はふむと当たりをつけると、ぶらりと校舎を歩き出した。

　バレンタインもそうだったが、ホワイトデーもかなり騒がしい学校を、彼女が気にしない訳がない。恐らく、きっと、間違いなく。
（―――やっぱり、いた！）
　解理の予想は大当たりだったようだ。もう少しで卒業だというのに、貴子はキリリと校内を巡回している。それでこそいいんちょ！　解理は嬉しくなりながら貴子に突撃した。
「ドーモ北風先輩」
　走り寄ってきた解理に、貴子は振り向いた。
「あら伊賀さん……廊下は走らない」
「ハーイ。今日はどこもかしこもホワイトデー一色ですね」
「ほんとそうね。風紀が乱れて困るわ」
　貴子は眼鏡に手をやり眉をひそめる。彼女にダイヤの乱れはなさそうだ。やはり凄い人だなと思いながら解理は尋ねた。
「ところで先輩は何かもらったんですか？」
「もらった？　なにを？」
「キャンディとかですよ。バレンタインでは渡さなかったけど、ホワイトデーで奇襲を仕掛けてくるという可能性もあることですし、先輩も女の子だからそういうイベントあったかなぁって」
「奇襲かどうかは分からないけど、同期の子からお菓子を頂いたわ。後は……これ」
　小さく溜息をつきながら貴子は持っていた小さな紙袋を見せる。中には山盛りのキャンディが入っていた。
「南波君が配ってるところに遭遇してね。いいって断ったんだけど」
（―――あんのチャラ男！）
　解理はへらりとした南波太陽の姿を思い浮かべる。まだ先輩にちょっかい出してるのか！
　ムッとした解理に気付く様子もなく、貴子は肩にかけている自分の鞄に手をやった。
「そうそう。会えて良かったわ。私もお返し持ってきたの」
「へ？」
　驚く解理に貴子は綺麗にラッピングされた小さな包みを渡した。
「クッキーよ。あなたから貰った不思議なチョコみたいに味の変化はないけど」
「や……いや……その……ありがとうございます……」
　解理は信じられない思いで目の前の包みを見る。貴子がイベントに乗っかった！
　固まっている解理に、貴子は軽く眉を上げて息をついた。
「私だって貰った物を返そうという気持ちはあるのよ？」
「そういうつもりじゃﾅｲﾝﾃﾞｽｶﾞ……」
　イベント事とはほど遠い彼女が、わざわざお返しをくれた。その事実がじわじわと解理の胸に染み、頬が自然と緩んでしまう。
「ありがたく頂きます」
「そうしてくれると嬉しいわ。じゃ、私はまだ見回りがあるから」
　顎を軽く引くと、貴子はまた背筋を伸ばして歩き出した。

　イベントに乗っかりながら、イベントの見回りをする。その矛盾に彼女は気付いているだろうか。
　解理は貴子の背中を見送ると、彼女から貰った包みを見て微笑んだ。
（ホワイトデーも……なかなかイイネ）
　解理もくるりと背を向け歩き出した。
　―――僕もイベントに乗っかって、『彼』のところに行こうかな。