【ホワイトデー】学生達のWhite Day!｜リアクション

【ホワイトデー】学生達のWhite Day!

「フジコ先生のお蔭で進級出来ました……フジコ先生のお蔭で進級出来ました……」
　ぶつぶつと呪文を繰り返しながら真剣な顔で廊下を歩く犬……ゴホンゴホン……鬼崎あやめがいた。
　その手には、あやめお手製のチョコクッキー。彼女は、富士山権蔵もといフジコ先生を探していた。

　性根は腹黒おつむは子供……あれ、褒めてないな……でも、意志が強く家族愛に溢れているあやめは、最後の期末、見事に零点を取った。赤点どころではない、零点である。それも２科目も。さすがフジコ先生の犬、期待を裏切らない。
　この時ばかりはあやめの脳裏に『留年』の文字が浮かんだ。しかし、そのピンチを天界から舞い降りたガーディアン・エンジェル……じゃなかった、フジコ先生がその見事な~~調きょ~~指導によって救ったのである。

　補習授業で血反吐を吐いたかどうかはともかくとして、自分が進級出来たのは確かにフジコ先生のお蔭だとあやめは分かっていた。進級が決まり、すがすがしい気持ちでホワイトデーというイベントを迎えた時、進級の報告と補習授業のお礼として、フジコ先生にお菓子を渡そうと思い立ったのである。
（別に他意はないんです……いえいえ、意識なんてしてませんよ！　本当ですよ！）
　感謝の気持ちに手作りクッキーで、それがたまたまホワイトデーで、とは裏読み出来なくもない。まあけれども本人が違うと言っているのだから、ここは取りあえずそうしておこう。確かに本人自身も色々複雑な思いを抱えているのかもしれない。だって、フジコ先生の補習を思い出したあやめの額には、脂汗が滲み始めたのだから。

　自分でも会いたいのか会いたくないのか分からなくなってきた時、あやめの首筋にふうぅっと生温かく湿った風が当たった。
「ひっ……！　ふ、フジコ先生……っ！！」
　青い顔で距離を取り振り返るあやめ。そこにはフジコ先生が獲物を見つけた肉食獣の目で立っていた。
「今日もいい声出すわねン♪　ワンちゃん。あたしを探してたんじゃない？　そんな顔してるわよ」
　そんな顔とは市場に売られていく子牛のような顔だろうか。あやめは畏怖なのか単なる恐怖なのかそれとも全然別の何かだろうか、ぞくぞくする背中をくっと曲げて、フジコ先生にクッキーを差し出した。
「フジコ先生のお蔭で無事進級出来ました……本当にありがとうございました！」
　練習の成果もあって、あやめは俯きながらも噛まずに一気にお礼を述べる。すると手からクッキーが離れる感覚がした。
（……あれ？）
　特に何をされる訳でもなくあっさりクッキーを渡せた事にあやめは驚き、思わず顔を上げる。そこにはフジコ先生があやめのクッキーを持ちながら、笑みを浮かべていた。
「ありがとう……教師として、とても嬉しいわ」
　そのつけまつげに縁取られた瞳の優しさに、あやめの心臓はトクンと跳ねる。……え、トクン？
　自分の感情の動きについていけずに、あやめはその大きな胸を思わず押さえた。私、心臓の病気じゃないよね？
　戸惑い混乱するあやめ。するとその無防備な耳元に、ふうぅっとフジコブレスがかけられた。
「ひやっ！」
　不意をつかれたあやめはビシッと直立不動になる。するとあやめの手に何かが当たり、握らされた。……これは、飴？
　耳元で艶のある声がした。
「お返しに、飴をあげるわ。でも、そんなモンじゃあなたは満足しないわね……。どんな調教がお好みかしら……？」
「はいっ！　すみません！　私なんぞはまだご主人様を満足させられませんっ！！！」
　忠誠の証は着実にレベル３まで上がってるのだ。これ以上上がってしまったら、自分はどんな世界に逝ってしまうのだろう。あやめの胃はキリキリと激しく痛むのだった。