【ホワイトデー】煌燦-KiraKira-ホワイトアイランド｜リアクション

【ホワイトデー】煌燦-KiraKira-ホワイトアイランド

● 光のトンネル～花束を君に

　浮舟久雨は、白くライトアップされた街路樹を背に畑生言嗣を待っていた。
　水族館を出た後、彼から渡したいものがあるからといったん別れたのだ。
　何だろう。……そぞろな気持ちでいると、言嗣が現れた。
　大きな、彼の上半身が隠れてしまいそうなほど大きな花束を持って。
「何、こんなものしか渡せなくてすまないね」
　彼は言ったが、あまりに驚いて、久雨の耳には半分も届いていなかった。
「……あ、ありがとう」
　花束をまじまじと眺める。ウェディングブーケを巨大にしたような、白が基調の豪勢なものだ。
　バラ。カサブランカ。ガーベラにダリア、スイトピー。名も知らぬ草花も含まれている。
「どうした。花は、嫌いだっただろうか」
「いや……嬉しい。ただ、花束をもらった時に、これほど……幸福な気持ちが胸の中に広がっているのが少々新鮮でな。驚いていた」
　言嗣は、口唇をわずかにあけて惚ける久雨を、可愛らしいと感慨深く思った。
「喜んで貰えるならば私もこの花も嬉しいものだよ」
　告げると、ようやく久雨の目元に笑みが浮かぶ。
「ふふっ。貴様だから、なのだろうな」
「私だから、か。そうかもしれないね」
　言嗣は悪びれなく言った。
　久雨はそんな言嗣の反応に随分慣れてきた自分がいることに気づき、忍び笑いする。
「では、今日はこのまま帰ってゆっくりするか」
「もう帰るのかい？　海浜公園でイベントもあるというが……」
「良いのだ。それに……人前では、その……あまり、」
　久雨は視線を泳がせる。それからもじもじと照れ臭そうに。
「あまり、触れられないからな。言嗣に」
　言嗣は一瞬言葉を失った。珍しいことだった。そのくらい、彼女の言葉に驚いた。
　言嗣はすぐにそんな風に驚いたことを迂闊だったと反省し、いつもの飄々さを取り戻す。
「君の口からそんな事が出てくるとはね……理由は」
「り、理由！？　むう……要するに、気軽にくっつけないと言うか、接近が憚られると言うか……」
「たしかに人前では……なんだね。いや、これ以上は聞くまい。きっと浮舟君も私と同じように触れ合いたいのだろう、常に」
「違っ、常にくっつきたい訳ではない！　嫌ではないのだが、限度や限界もあっ、て……された分は、できるだけ、返……」
　駄目だ、私は何を言っているのかと、久雨は頭を抱えたくなった。
　言嗣は余裕そうに笑みを浮かべている。その顔を見ると、久雨はかあっと血が上った。
「……っ！　寮への帰宅を急ぐぞ！」
　大きな花束を抱えたまま、踵を返し足を速める。
「それならば部屋まで送ろう。帰るまで荷物になるだろうしね」
　言嗣が追いついてきて、花束を持つ。
　久雨は紅潮した頬のまま、言嗣を睨んで釘を刺す。
「今居る此処は外だと忘れるな、言嗣」
「ふふっ、照れる事はない。我々に限界という名の壁など存在しないのだからね……！」
「頼むから口を噤んでくれ」
　久雨の懇願を、言嗣は果たして聞く気があるのかどうか。
「咎められてしまったよ。まあ、それも悪くはない」
「くっつくな！」
「わかっている。部屋に帰ってから、だろう？　された分は返すといったではないか」
「だから頼む。口を噤んでくれって……」