春色タペストリー｜リアクション

春色タペストリー

　胡乱路秘子が着替えを終えるのを待って、来島アカリは彼女と一緒にシーサイドタウンを回った。
　目的は、ロベルト先輩へのお返し探し。
　秘子はアカリを連れ回し、熱心にアドバイスをしてくれた。
　でもそれはスポーツ用品ショップで、
「来島さん、季節先取りして水着のプレゼントというのはいかがでしょう？」
「いいですね、と一瞬思いましたがそれ、ラインが際どすぎません？」
　というものだったり、レコード店では、
「では来島さん、怪談のCDはいかがです？　怖がられますよ♪」
「怖がられたくないです！」
　だったり、書店では、
「詩集なんてどうです？」
「いいですね」
「般若心経は詩集という説があります……んふふ」
「どうしてそういうチョイスなんですか！？」
　だったり、玩具店で、
「人体解剖模型のプラモデルがいいですね♪」
「よりによってその一択ですか！」
「ハートの位置もバッチリです」
「それ心臓です！」
　というものだったりした。
　疲れて（ツッコミ疲れ？）ベンチで休むアカリに、水がしたたるような含み笑いとともに秘子は告げたのである。
「なかなか、これといったものが見つかりませんね。んふふふ」
「胡乱路先輩の意外な面を今日は見た気がします……」
「少しふざけすぎたかもしれません。でも、本当は……気づいてもらおうと思って」
「気づいて？」
「ええ、大切なのは『何をあげるか』じゃないと思うんです。素直に想いを伝えることが一番だと思うのです……んふふふふ」
　素直な、想い……？
　アカリは口を閉ざした。
　もしかして、バレて……！？
　でも、そうだよなと思う。
　せめて、明日くらいは素直に、本音で――。
「ありがとうございました」
　このとき心から、アカリは秘子に感謝していた。
「自分がどうしたいのか、わかった気がします」
　それは良かった、と微笑んだ秘子から、麝香に似た甘い香りがした。

　秘子と別れたアカリは、ホワイトデーの贈り物や花言葉の意味を調べ、必要なものを買いそろえたのだった。
　帰宅して彼が手がけたのは、キャンディーブーケ作りだった。

　前は、隠してしまったから。
　今度はちゃんと、伝えられるように……。
　けど恥ずかしい、から、封筒に包んで、贈らせて――