夕方、何する？｜リアクション

夕方、何する？

　今日のタイムサービスは、戦いになる。
　だって、今日のタイムサービスの目玉は牛肉だから。

「それにサラダ油も安いとなったら……早めに行かないといけませんね」

　キャットロードにあるスーパーの広告を見る綾辻綾花は、この戦いに勝つ意味を知っている。
　勝ったら、すき焼きができる。サラダ油もしばらく買わなくていい。
　すき焼きというと、割り下で煮込む関東風と肉を焼いてから入れる関西風があるけど、サラダ油が手に入るなら関西風で食べてみてもいいかもしれない……それも、戦いに勝たなければ夢のままで終わってしまう。

「とは言え、少し早いですから……」

　途中にある公園でにゃんこの皆と触れ合いたい。
　寝子島に猫が多いとは言え、怪我や病気をしないということではないし、怪我や病気がなくても特に子猫は成長の速度が速いからその変化は見逃したくない。
　綾花は猫メモを取り出し、公園へ入っていく。

「……？」

　この時間は集会を開いているだろうと思った彼らは、ベンチに群がっている。
　何かをてしてし叩いている……？

「あ」

　近付いて解った。
　ベンチですやすや寝ているのは、夕日を浴びてキラキラ輝いた金髪を持つ女の子。
　見た所小学生くらいに見えるその子は、楽しい夢を見ているのか、何やら楽しそうに笑っていた。

◆◆◆◆　　　　◆◆◆◆

「お嬢さん、お嬢さん」

　誰かが話しかけてくる声でトワ・E・ライトフェロゥは、青空の瞳を開けた。
　目の前にいたのは、二本足で立つ猫。……猫！？

「起きましたね。こんな場所で寝ていると危ないですよ」
「家へ真っ直ぐ帰れよー！」
「これ、失礼ですよ」

　隣にいる別の猫がそう言うのをトワに話しかけてきた猫が窘める。

「お迎え待つしてマシタ。トワは自分で帰ろうとすると、homeではなくー別の場所に行くデスカラー」
「深刻な方向音痴かよ」
「やめなさい」

　遠慮なく言う猫はまた、紳士的な猫に窘められる。

「公園で家の方が来るのを待っていらしたんですね？」
「friend……友達皆帰ったデス」
「だから俺達は今から集会するんだし」

　気付くと、周囲には沢山の猫が居た。皆二本足らしい。

「まあネコジマーデスカラー」

　公園に居るのは自分以外皆二本足の猫ということもあってお客様気分のトワは、この島ならば何があってもおかしくはないとあっさり受け容れた。
　頭に過ぎるのはクリスマス会をしていた犬や猫の事。
　自分が知らなかっただけで、この寝子島ではこれがフツウなのかもしれない。

「客はいるが、会議始めようぜー！」
「まずは、皆さん、今日は何をされましたか？」

　荒っぽい猫が皆へ声をかけると、紳士の猫が最初の話題を投げた。

「今日日向ぼっこするのに良い場所見つけた！」
「ばーちゃんがご機嫌で魚食わせてくれた！」
「そろそろつがいほしい」

　今日の過ごし方は猫それぞれで、主張もそれぞれ。好きに主張し合っているのがやっぱり猫なのかも。

「トワも参加する、いいデスカ？」
「今日の事を秘密にして頂けるなら」
「秘密にするデスヨ！　トワも参加するマス！」

　トワがぴっと手を挙げた。

「今日は学校でー運動してー」
「ガッコウ？」
「この近くにでかくて子供がいーっぱい居る場所あんだろうが」

　木の枝を拾ったトワは、興味を持った猫の皆へ今日授業で習った漢字を披露する。
　猫が皆、トワの文字を興味津々で覗き込む。

「国語の漢字がこんな字でー、これはhope……『望』デス」
「これを見せたら魚もらえるか？」

　授業の合間には休み時間とキュウショクがあり、キュウショクはお昼の事。毎日牛乳が出るとトワが教えると、猫の皆の目の色が変わった。

「何それキュウショク食べてぇ！」
「牛乳が頂けるなんて素敵ですね。もう少し詳しく話して頂けませんか」
「あ、抜け駆けするなよ。俺がキュウショク食べるんだぞ」

　尋ねてくる猫の数が多い。
　トワはどうしようと大慌て。

「トワが潰れるデスー」

　押さないでと言うけれど、皆話を聞かずにトワをぎゅうぎゅう潰して───目が覚めた。