春を探して｜リアクション

春を探して

　二人を名残惜しく見送り、清一郎が修につぶやく。
「最近ツーリングも行けてへんし、今度湘南でも行こか」
「お、いいね。バイクツーリングか。湘南？」　
　湘南は寝子島から近い。修は頭の中で地図を展開した。
「うん、休みまでに色々スポット的な所も調べておくよ」
　クールな反応に見えるが、バイクで一緒できる友人は居なかったので、凄く嬉しい修である。
「海！　砂浜！　おねーちゃん！！　ナンパやナンパ。八神もモテるんやから付き合ってもらうで～」
「相変わらずだな」　
　友のテンションに苦笑いする修に、清一郎がいい笑顔になる。
「いつも通りのドタバタ加減やけど、いつも通りでええんちゃうか？　なぁ八神」
「ああ……そうだな」
　そこへ、小学生らしい女の子たちがやってきた。
「さすがにこれはナンパできんなあ」
　苦笑して視線を離す清一郎だが、きゃっきゃとはしゃぐ様子を見ていた修が少女たちに近づいていく。
「おい、まさかそんな趣味が……」
　呆然と見送る清一郎。修は一際小さな女の子に近づいていく。
「手伝おうか」
　必死に手を伸ばしていたその子は、びっくりした様子だったが、すぐにこっくり頷いた。
　上のほうになっていた大きな苺を、修は優しくその子に手渡したのだった。

　少し前に、瀬莉と友達は　いちごのハウスにたどり着いた。
「おなかぺこぺこ！　食べよう！」　
　歓声をあげて、片っ端からいちごを摘んでは練乳につけたり、そのままで食べたりしていた。
　なにせ先ほどまで遊んでたので、とにかくお腹がすいてすいて……
　知らないお兄さんが手伝ってくれるまで、つい小さな友達の妹まで気が回らなくなっていた。
「ありがとうございます」
　友達が言い、瀬莉も軽く頭を下げた。
　お兄さんはクールに微笑むと友人らしき人の下へ帰っていく。
「下のほうにもあるんだから、ちゃんと自分で探して取りなさいよ……」
　友達が妹にぶつぶつ言っているのを、瀬莉はちょっとうらやましいような微笑ましい思いで眺めていた。
「あっ、早く食べないと時間がなくなっちゃう」
　友達に言われあわててまた食べ始める。
「ね、いくつ食べた？」
「そんなの数えてないよー」　
　そんなこんなでいちごな一日を満喫できたのだった。

「旦那様や娘にも味わってほしいけど、いちごのお持ち帰りはできないみたいね」
　ハウスを出た理沙は残念そうだ。
「寝子高の寮にも送れそうな良さそうなお土産は……あら？」
「あっちで何か売ってるみたいなのです」
　きとりが指さしたのと理沙が気づいたのはほぼ同時だった。
「いちごジャム……これなら良さそうだわ～！」
（これだけ美味しいいちごで作ったジャムだもの、きっととっても美味しいわよね）
「買って紅茶に入れたりするです。このきれいな赤は、部屋の飾りにしてもいいかも？」
「素敵、いい考えね！　すみませ～ん、ジャムを２瓶くださいな～！」
　二人はそれぞれジャムを買い求め、笑顔で別れた。
　
　理沙は帰り際、九夜山の景色を眺めた。
　花も空気の暖かさも、明らかに冬のものではない。
（寝子島ももう春なのね）
「桜も……そろそろ咲くかしら～？」
（来年も、再来年も……）
　理沙は願う。
（寝子島や色んな所に、素敵な春が訪れますように～！）
　と。