春を探して｜リアクション

春を探して

○男二人と女性たち

　須藤清一郎と八神修は、一緒にいちご狩りにやってきた。
「いちご園に来たんはええけど、なんやまったりやな」
　だが何か物足りない様子の清一郎。
「イチゴか……女の子が好きそうやな。なんでここに女の子がおらんのやろう……へこむわぁ。男二人とか場違いやろ」
「確かに、須藤も俺も苺狩りするようには一寸見えないなぁ。穴場だっていうからさ。でも独りだとハードル高くてね」
　くす、と笑う修。
　オールバックにピアス、いかにもチャラい感じの清一郎と、冷静温和な優等生という雰囲気を漂わせている修は対照的だが、仲のいい友人同士だ。　
「まずは写真、一足速い春の光景だ」
　カメラを取り出す修。
「なんや、男同士で記念撮影かいな」
　呆れた風の清一郎の顔に、修は笑う。
「その発想はなかったな。むしろ苺のアップが撮りたい。すみません、写真を撮らせてもらってもいいですか」　
　カメラを構えた修は、摘んでいる人が写ると判断し声をかけた。
　快くＯＫをもらい、撮影する。
　お礼を言った後は、人を写さず苺のアップも欠かさない。
「さて食べるとするか。食べ放題の摘み放題だ。お腹は空かせて来たよ」
　立ったままで良いから其の場で食べる。
　どんどん摘んで、そのまま何も付けず苺本来の味を楽しむ。
「美味いな」
「まぁイチゴ食べつつゆったりと過ごすとしよか」
　清一郎も食べ始めたが、どこか物足りなさそうだ。
「『にゃまおう』も良いけど昔ながらの『みゃのか』も良いね」
　修は品種の表示を見ながら苺を食べ比べている。
　清一郎はふと周りの女の子たちに気づいた。
「ん、そういえばせっかくいちご園に来てるわけやし、周りは女の子がいっぱいやんか！！　これはナンパせな、男がすたるで！！」
　さっそく金髪のお姉さんに話しかける。
「そこのかわいい彼女、一緒に苺狩りせえへん？」
　話しかけられた理沙はおっとりと微笑んだ。
「あら、私のこと？　こんなおばさんでいいのかしら？」
　高校生の娘がいる理沙だが、外見は未だに１０代の少女のようだ。
「へ？　おばさんだなんてこんなかわいいのに冗談ばっかし……」
　少し離れたところで、修はそれを微笑ましく見守っている。
（須藤のナンパは元気な証拠だな。友達が増えるのは良いことさ）

（わちしは基本的に隅っこ属性だけれど、それは世界に溶け込む練習なのです）
　と理沙の近くで思うきとりである。
（今日はそのせいかが大いに発揮されているのですよ）
　だが。
「そこのかわいい彼女も一緒にどう？」
　清一郎はきとりも見逃さなかった。
（んー、寂しい人とお話しするのは構わないのよ）
　そんなふうに思い、話に加わる。
　修も苺が溜まったので腰掛けてゆったり食べることにした。
「せっかくだから苺の話でもしようか。いつもはどう食べてるかは定番だ」
「どうって、ミルクかけるとかか？」
「サラダに乗ってたりで食べるよ。苺ワインとかはジュースみたいだよな」
　そう修が言うと、理沙の顔がほころぶ。
「苺ワイン！　いいわねぇ……いちごはそのまま食べてもおいしいし、ケーキとかに使うのも……考えるだけでも心が躍るわ～！」
「そうやな……って、なんでお前ワインの味知ってるんや！」
　修にツッコミを入れる清一郎。
「……って製菓材料な。菓子に使ってあるじゃないか。そのまま飲んだりはしない」
「ああ、お菓子なのね」
「……と言う事にしておこう」
　くす、と笑う修に清一郎のツッコミが冴える。
「……しておくんかいな！　ほんとは飲んでるやろ！」
「あら、もうこんな時間……あっと言う間だったわね」
「あ、ほんとだ……巻いていかなきゃ」
　場が盛り上ったところで、理沙ときとりの終了時間がきてしまった。
「あなたたちはまだ時間あるんでしょう？　楽しんでね」
「じゃあね～」　
　二人は手を振ってハウスを出て行った。

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