春を探して｜リアクション

春を探して

○のんびり、休日

　恵御納理沙は、久しぶりに寝子島へやってきた。
　おっとりしているが独りでじっとしている事が苦手な理沙を、寝子島での仕事が入った旦那様が車で島へ送ってくれたのだ。
　旦那との帰りの合流まで九夜山を散歩しよう、と思った理沙だが。
「……あら？」
　ビニールハウスと看板に目を留め立ち止まる。
「あら、いちご狩り～？」
　理沙の脳裏に、赤く瑞々しい果実が広がった。
（いいわねぇ……おいしそうだわ～！）
　こうなると迷う余地はない。
　受付へと向かい、バッグから財布を取り出して、理沙はいちご狩りを楽しむことにした。
　ビニールハウスの中は、まるで宝石箱のようだった。
（寝子島育ちの新鮮ないちご……）
　どれから食べようか迷いながら、おいしそうなのを１つ摘んで、ぱくり！
「あまぁ～い……おいしいわぁ～！」
　満足の吐息を漏らす理沙。
「どの果物も好きだけど、やっぱり旬の果物は良いわよねぇ～……」

「いちごがたくさんだねー……おいしそうー……」
　そこへ、狗民きとりがのんびり、のんびりとやってきた。
「赤と緑のコラボレーション。すてきだよねー……」
　話しかけられた理沙はにっこり答える。
「ええ、本当にそうね」
　眠そうな目をしたきとりののんびりぶりを、微笑ましいわ～、と思いながら見ている理沙。
　しばし二人は、いちごを取るのを忘れてぼんやりイチゴ畑を見ていたー……ぽやーん。
「……いけない、食べ放題は３０分間限定だったわ！」
　と理沙が我に返り。
「あ、たべなきゃ……食べに来たんだったね」
　と、きとりもマイペースに気が付く。
　実はきとりにはもう一つの顔がある。
　『いぬみん』という、いぬみん星のお姫様を名乗る奇妙なキャラを使ってアーティスト活動をしているのだ。
　緑色のカラーコンタクトをして、本体さんと呼ぶ垂れ耳わんこ帽子をかぶって、活発な雰囲気で話す。
　だがきとりは『いぬみん』をやっているとき以外はほぼこんなのんびりなかんじだ。
　『いぬみん』と普段のオトメな感じとのギャップが激しいため、気づかない人が多数だ。
　友達に誰だっけ？　って言われたりする。
（そんなにきとりはみんなに覚えられてないんだろうかって思ったりするよ）
　でも、きとりはそんな自分がきらいではない。
（わちしは完全なるステルス状態なのだって、フフっ。いまわちしはこのせかいにとけこんでいるのだ！）
　と、無駄にポジティブ思考なのだ。

　知り合いじゃないけど楽しそうにしている理沙に、何あんた、って思われても仕方ないなと思いながら話しかけたけれど。
（知らなくても、この人は気にしないみたい）
　ときとりは思う。
「食べ過ぎないよう気を付けつつ、いちごを沢山食べるわよ～！」
　理沙は相変わらずの笑顔できとりに話しかける。
　食べ過ぎないようにというのは体重を気にしているわけではなくて。
（他のお客様の分も大事だから）
　という理沙の気遣いた。

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