be enjoy lunch time｜リアクション

be enjoy lunch time

■天国まで１０メートル
「あいつのことか。ああ、知ってる」
　銃声と空をかき混ぜる音。崩れた灰色の室内。
「焼きそばパンを手に入れた。その顛末の話だ」
　銃を手に放す兵士。彼は指を三本立てた。
「生徒は三つに分けられる。弁当を持ってくる奴。学食に行く奴。そして――購買で買う奴」

　――という空想を終えて、御剣刀は階段の踊り場から飛んだ。
　髪を混ぜる空気。翻るネクタイと制服のジャケット。
　姿勢制御をかけながら着地。転がって立ち上がるまでに数人が自分を抜いていく。
　男女混合学年無差別。全校上げての争奪戦。
　『早い者勝ち』という世界で最もシンプルなルールに則った、購買競争である。
　購買にはパンが売られる。これは当然の話だ。
　しかし人気に関わらず同じ数が売られる。味気ないコッペパンとボリュームたっぷりの焼きそばパンや唐揚げパンが同列に並んだとき、人がどちらを選ぶかはもはや明確であった。
　皆がパンカーストの頂点を目指し、焼きそばパンに手を伸ばす。
　しかし手が届くのはごく僅かな勝者のみ。
「間に合うか？　いや、間に合わせる……！」
　刀は脳内で撃鉄をイメージした。しかし引き金には指をかけない。パンの神様はそれを許さないだろうから。自らの鍛え上げた肉体と頭脳で手に入れて初めて勝者となるのだ。
　並み居る生徒たちの間をジグザグに駆け抜け、勝利の輝きへと手を伸ばす。
「焼きそばパンと唐揚げパンだ！」
　五百円玉と共に繰り出された叫びは、購買の手へと収まった。

「これぞ勝利の味」
　刀は屋上の貯水槽の上へ座ると、焼きそばパンにがっついた。
　パンと麺。一見炭水化物の組み合わせだが麺には甘辛いソースと僅かな紅ショウガ、そして青のりが加わり味のアクセントを深めてくれる。それに何より細長くスライスされた豚肉が身体に染み渡っていくこの感覚といったら……！
　そして男の夢、唐揚げパン。パンに肉が挟まっている。それも油で揚げられた鶏肉だ。半分にカットされた唐揚げはコッペパンの間に挟まり食べる前から誘惑してくる。
　焦る必要はないが、しかし欲求も押さえる必要はない。豪快にがっつく。そして余ったお金で手に入れたあんパンとクリームパンを食べきり、野菜ジュースをちゅーちゅーしながら身体に染み渡るのを待った。
「平和だ……」
　日常のなんたる尊さ。
　日の当たる場所の暖かさ。
　目を瞑って昼寝でもと思った所で、ふとこんな声が聞こえてきた。
「ああ、食べてくれ。ひとつと言わず全部いいぞ！」
　ひょこっと顔を出す刀。
　斎賀藤馬が重箱（重箱！）を広げて中身を皆に振る舞っていた。
　お腹に手を当てる。同じく屋上へやってきた柏村文也と目が合った。
　ランチタイムは、まだ始まったばかりだ。

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あとがき

担当マスター：青空綿飴
ファンレターはマスターページから！

このフード社会、お昼ご飯を楽しむというのは人生を楽しむ近道であったりします。
好きなものを好きなように食べる。たまにバランスも保ったりして、満腹感に浸る。個人である前にヒト科の生物であるというそのメカニズムゆえ、誰でも味わうことのできる幸福なのであります。
さあて、今日のお昼ご飯はなにを食べようかしら。

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