みんなで楽しいひなまつり！｜リアクション

みんなで楽しいひなまつり！

　鴻上彰尋も寝子島神社にやって来ていた。その両手に幼い双子の弟妹を連れて。

　今日はひな祭りという事で、妹の為にやってきたのだ。はしゃぐ妹に、何だか不満顔の弟。「子供の日はお前が主役だから」と慰めながら、３人は甘酒の配布所にやって来た。

「子供でも飲める甘酒ってありますか？」
　彰尋は甘酒を振る舞っている巫女さんに声をかけた。
「ああ、酒粕がご心配なら米麹のみの甘酒がありますよ。ちょっと待ってくださいね」
　そう言うと巫女さんは奥から米麹の甘酒を持って来てくれる。彰尋は礼を言って弟妹に渡してやった。
　その後ひなあられや桃の花の振る舞いも受け、３人はほっこりと寝子島神社のひなまつりを楽しむ。
（こんなひな祭りも悪くないよな……）
なんて彰尋がのんびりベンチに座って思っていると、その袖がくいくいっと引っ張られた。
「お兄ちゃん！　屋台行こう！」
「うん！　僕輪投げしたい！」
　そう言って「ねーっ」と顔を合わせる妹と弟。どうやらお祭りを楽しむ事で２人は和解をしたらしい。彰尋は苦笑しながら立ち上がった。

　屋台はどこも賑わいを見せている。あちこちを覗きながら彰尋達は輪投げ屋にやって来た。
　輪投げ屋の壇の上にはずらりと景品が並べられている。その様子に弟妹達はきゃいきゃいと大はしゃぎだ。そんな彼らをにこやかに眺めていた彰尋。と、彼の背中がとんとんと叩かれた。
　振り向いた彰尋の前で。
「彰尋君、こんにちは♪　１人で来たの？」
　七夜あおいが可愛らしい笑顔を見せていた。

（わ、あおいさんだ！）
　突然の出会い。彰尋はビックリしながら少し慌てて答えた。
「こんにちは、あおいさん。いや、俺は今日は１人じゃなくて……」
　その時彰尋の両脇からにゅっと弟妹達が顔を出した。
「「こんにちは！」」
　その見事なユニゾンにあおいの目が大きくなる。彰尋は頭を掻きながら弟妹達をあおいに紹介した。
　訊けばあおいは１人で祭りに来たという。彰尋が良かったら輪投げを一緒にしないかと誘うと、あおいは「楽しそうだね！」と快諾する。４人は仲良く輪投げ屋の店主から輪を受け取った。

　今日の彰尋は調子が良かった。それは弟妹の前だからだろうか。それともあおいの可愛い声援があったからだろうか。妹と弟がはずしてしまった景品を、次々とゲットしていった。
「「わー、お兄ちゃんありがとう！」」
　２人はそれぞれお目当ての小さな人形とミニカーを手に、満面の笑みだ。するとあおいがツンツンと彰尋の服の裾を引っ張った。
「彰尋君、私後輪が１本しかなくなっちゃって……」
　その何だか悲しそうな顔に、彰尋は思わず噴き出しそうになる。あおいの狙っている物は分かっていた。可愛らしいぬいぐるみだ。彰尋はそのぬいぐるみを見つめながら言った。
「俺も後２本しかないけど……やってみるよ！」
　パチパチパチパチ！！　彰尋の横で、あおいと弟妹達が目を輝かせて拍手した。

「えへへ～、ありがとう、彰尋君！」
　輪投げが終わって、あおいが嬉しそうに言った。彰尋の奮闘のお蔭で無事手に入った小さなぬいぐるみは、今あおいのカバンの中にいる。
「それじゃ俺達は帰るけど、あおいさんはどうする？」
「んー、社殿の方まで行ってみようかな」
　それならと、彰尋は上に甘酒などの配布があった事をあおいに教えてやる。そして妹の持っていた桃の花に気付き、言った。
「桃の花の振る舞いもしてたよ。妹が持ってるような小さなやつだけど。部屋に飾ってもいいんじゃないかな」
「そうだね！　ののちゃんもきっと喜ぶよ。教えてくれてありがとう、彰尋君」
　そういうとあおいは大きく手を振って、元気よく参道を上っていった。

　あおいを見送ると、彰尋は弟妹達と参道を下り始めた。
　妹が振り回しそうになる桃の枝を「人に当たるから駄目だよ」と注意しながら、彰尋はその可愛らしい花を見つめる。
　春が、そこにある。そしてそれはあのあおいの明るい笑顔と重なった。
　彰尋は来た時よりも温かい気持ちで神社を後にした。