みんなで楽しいひなまつり！｜リアクション

みんなで楽しいひなまつり！

　『宮祀青果店』の配達が終わった帰り。宮祀智瑜は参道商店街で、神社に向かう人の波を見て思い出した。
（あっ、今日はひなまつりをしてるんだっけ）
　どうりでいつもより賑やかなはずだ。折角だからと智瑜は家に連絡を入れてから神社に寄る事にした。
　そして１０分後。智瑜は自分の判断に感謝する事になる。

「義弘先生、発見！」
　何と智瑜はこの人混みから想い人の桐島義弘を発見してしまったのである。恐るべし乙女レーダー。（「恋の力です！」宮祀智瑜：談）
　早速智瑜は義弘に駆け寄った。
「先生！　見回りですか？」
　その弾んだ声に義弘が振り返った。
「ああ、宮祀か。まあ、そうだな。羽目を外す生徒がいないか、自主的にってとこだ」
　その言葉に智瑜の目が輝いた。
「じゃあ私も一緒に回ってもいいですか？」
「え？　別に構わんが……」
（やった！）
　智瑜は心の中で可愛らしくガッツポーズを取った。

　智瑜は義弘の隣を歩き始めた。
　学校では先生と生徒。けれどもここでは私服の義弘と智瑜。そのいつもと違う雰囲気に智瑜はドキドキしてしまう。
（他の人から見たら恋人同士に見えるかな？）
　高鳴る心臓。切なくきゅっと自分の胸を押さえた智瑜は、ふと思い出して義弘に聞いてみた。
「先生、誕生日にプレゼントしたマウスパッドはどうですか……？」
　義弘の手首の疲れ軽減にと思って贈った特大のおっぱいマウスパッド。あれがちょうど智瑜の胸の大きさと同じだったので思い出したのだ。するとサッと義弘の頬が赤くなった。
「！　いや！　うん、それはその……」
「使いづらかったですか？」
「いや、そんな事はない！　丁度いい使い心地……」
　言いかけて義弘はもっと赤くなってしまう。智瑜は何だかよく分からなかったが、役に立っているようだったのでほっとしながら言った。
「少しでも先生の手首の負担が減っていれば何よりです」
　そしてそっと義弘の手首を取り、触ってみる。義弘がますます慌てて言った。
「み、宮祀！　俺の手を、その、胸元付近に持っていくのは勘弁してくれ」
「え？　あ、すみません」
　義弘の言葉に智瑜は彼の手首を放した。義弘は自分の手首をさすりながら明後日の方向を向いている。その耳が赤くなっているのが不思議で、智瑜は首を傾げた。

　義弘は参道の屋台の列を抜けて拝殿のある境内にまで行くようだった。その途中、智瑜は桜餅を売っている屋台を見つけて声を上げた。
「あ、桜餅です！　先生、買っていっていいですか？　家へのお土産にしたいので」
「ああ、構わんぞ」
　義弘が軽く頷く。そして桜餅の屋台で、智瑜は家へのお土産に、義弘は「腹が減ってるだろう」と智瑜と自分の分を購入した。
　美味しい桜餅。普段厳格な義弘も「まあ、屋台だからな」と何だかいつもよりもちょっと優しい。２人は春の味を楽しみながら参道を上がっていった。

　社殿のある境内も、かなりの賑わいを見せていた。
　一通り境内を回って、義弘は見回りを終了するつもりだと智瑜に言った。名残惜しい智瑜は、つんつんと義弘の袖を引っ張って言った。
「あそこで流し雛がやってるようです。あれだけ見ていっていいですか？」
「やりたいのか？　まあ、俺はしないけどいいか？」
「はい！」
　智瑜はにっこり笑って言った。

　流し雛を貰った智瑜は、ちょっと考えてから薄桃色の紙に願い事を書いた。
『義弘先生が宮祀青果店に何度も来てくれますように！』
　それを覗いた義弘が意外そうな顔をした。
「そんな願い事でいいのか？　俺が行っても大して売り上げに貢献できんぞ？」
「いいんですよ」
　笹舟を作りながら智瑜が答えた。―――だって、私が配達に行ってて会えない時があるし。少しでも会えたら嬉しいから。
「今からでも来ますか？　大歓迎ですよ」
　きょとんとしている義弘に、智瑜は恋する瞳で笑った。