みんなで楽しいひなまつり！｜リアクション

みんなで楽しいひなまつり！

【春】流し雛

　旧市街にある実家に寄ったら家族に言われた。
「今年も神社のひなまつりやってるよ」
　もうそんな時期だったかと綾辻綾花は少し驚く。
　毎年遊びに行っていた賑やかなお祭り。綾花は今年も覗いてみる事にした。

　賑わう境内は毎年の光景だ。綾花は静かに参拝を済ませてから、参道の屋台を巡る事にした。
　屋台の列からは、あちこちから食欲をそそる匂いが漂ってくる。特にソースの匂いは半端ない。そして目の前にはタコ焼きの屋台が手ぐすねを引いていた。
　何て分かりやすい屋台の罠。そして人はそれに喜んで引っかかってしまうのだ。綾花もどうしようかと悩んでいると、ポンとその肩を叩かれた。
「こんにちは、綾辻さん。よく神社で会うね」
「珪先生！」
　綾花の目の前で、司書の早川珪が優しい笑みを浮かべていた。

　思いもかけぬ出会いを喜ぶ綾花。そして早々に珪が屋台の罠に掛かったようだ。彼は頭を掻きながら「タコ焼きでも食べないかい？　……どうもお腹が空いてしまって」と綾花に言った。勿論綾花に異論はない。２人は喜んで罠に飛び込んでいった。
　「へい、お待ち！」なんて満面の笑みで言う親父から２人はタコ焼きのトレイを受け取る。そこに刺さる爪楊枝は２本。２人は仲良く１つのトレイから熱々のタコ焼きをあ～んと頬張った。
　はふはふと熱さを逃がしながら２人で食べるタコ焼き。その美味しさに綾花と珪は顔を合わせてふふと微笑み合った。

　神社で催されるひなまつりがどういうものか気になって、珪はここに来たらしい。毎年来ている綾花は珪を案内する事にした。
「甘酒も振る舞われているんですよ」
　参道を上がりながら綾花が言った。
「へえ、美味しそうだね」
「先生も是非どうぞ。私はさっき飲んできたからいいです」
「お家で？」
「ええ。実家でも甘酒を作ってるんです。美味しいんですよ」
「自家製か。それは素敵だな」
　そんな事を話しながら彼らは楼門の前に着く。そして珪が配布所で甘酒を貰うと、２人は社殿のある境内に入っていった。

　２人はのんびりと桃の花を見たりしながら境内を散策する。そして一緒に流し雛をする事になった。
（願い事……何にしようかな）
　綾花はちょっと考え、紙に『将来の夢がみつかりますように』と書く。そして珪の方を振り向き言った。
「珪先生は書かれましたか？」
「ああ」
　そう言って珪は自分の紙を見せてくれる。そこには『図書室がもっと利用されますように』とあった。
　あまりに珪らしくて綾花はくすりと笑ってしまう。珪は「……まあ、これは神頼みではなく、もっと僕が努力しなくてはいけないんだけどね」と頭を掻いた。
「私も利用者が増えるよう頑張りますね」
「ありがとう。綾辻さんは何て書いたの？」
「私ですか？　私は……」
　綾花は自分の紙を珪に見せた。珪が穏やかに微笑む。
「まだまだいっぱい悩んでいいと思うよ」
「本に関われる仕事はいいなと思ってるんです。だから、司書も候補に入ってます」
「それは嬉しいね。僕に出来る事があるなら協力するよ」
「ありがとうございます！」

　慣れない珪は綾花に笹舟の作り方を教えて貰ったりしながら、２人は笹舟を作る。そして珪もまだ時間があると言うので２人で猫又川に流しに行く事にした。
　上がってきた参道を、２人でまた一緒に下りる。
（願いが、叶いますように……）
　珪の横で、そっと思う綾花だった。