みんなで楽しいひなまつり！｜リアクション

みんなで楽しいひなまつり！

　雨寺凛はその声を明るい鼻歌に乗せ、ご機嫌で寝子島神社に通りかかった。
（お？　なにやら盛り上がってる雰囲気……？）
　神社がいつもの静かな様子でない事に気が付き、凛は大きな鳥居のある参道を見る。そこにはずらりと屋台が立ち並び、桃色のぼんぼり提灯の下、人々が楽しそうに神社に向かっていた。そしてあちこちにあるのぼりに書いてあるのは、『ひなまつり』の文字。なるほどと凛は１人頷いた。
（そっか、今日はひなまつりの日なんだね。折角だしちょっと寄って遊んでいこうかな！）
　凛はその黒色の瞳をくりんと輝かせると、足取り軽く参道を上り始めた。

　リズミカルに参道を上がっていけば、社殿がある高台に出る。トンッと自慢の黒髪を弾ませて参道を上がりきると、凛の目にあちこちで咲く桃の花が飛び込んできた。
「う～ん、もうすっかり春だなぁ！」
　凛は嬉しくなって思いきり息を吸い込んでみる。まだまだその空気は冷たかったが、仄かに桃の香りがした気がして、凛はふふと微笑んだ。
　境内ではたくさんの人がお参りをしたり、ベンチで屋台の物を食べたりと思い思いに過ごしている。そんな様子を楽しそうに眺めていた凛は、社務所の方に人が集まっているのに気が付いた。
「おや？　あそこで何かやってるのかな？」
　手をかざしほうほうと凛は眺める。
（これはきっと面白いことだね！　私のセンサーがビビッときたもの）
　凛はニッと笑うと社務所に向かって歩き出した。

　社務所では流し雛を配布していた。窓口で首を傾げた凛に、巫女さんが願い事を書いて笹舟に乗せて流すのだと教えてくれた。
（へぇ、楽しそうだね。私もやってみようっと！）
　顔を輝かす凛に、巫女さんが微笑みながら流し雛を渡してくれる。凛はうきうきしながらペンの置いてあるテーブルに移動した。

「お願いごと……どうしようかなぁ」
　テーブルの前で、凛はうーんと首を捻った。やはり周囲の人もあれやこれやと考えているようだ。
　凛もつらつらと考える。そういえば、もう３月だ。もうすぐ私は高校２年生になるんだっけ。
「よし。それに向けて……」
　ん、と軽く顎を引くと、凛はすらすらと流し雛に何かを書き込んだ。
「……っと、できた！　こんな感じかな」
　陽に透かすように凛が掲げた薄桃色の紙には、『かっこいいセンパイになれますように』の文字があった。
　４月からは上級生。『センパイ』の文字を見ていると、何だかわくわくしてくる。
　新しくなる学年に胸を膨らませながら、凛は笹舟を持ってテーブルを離れた。

　―――今度はこれを猫又川に流して、神様に届けなくっちゃ！