みんなで楽しいひなまつり！｜リアクション

みんなで楽しいひなまつり！

　月守輝夜はご機嫌で神社のお祭りを楽しんでいた。

　家から近いので散歩がてら神社に来た輝夜。屋台で綿菓子を買って、ふわふわ……ぱくり！　ん～とその艶やかな黒い瞳を細くした。
（甘くて溶けていく感じが好き！）
　小さい頃から定番の、大好きな屋台のお菓子を輝夜は幸せそうに食べ進めていたが、その瞳が突然きらきらと輝いた。
「慎之介くん！」
　綿飴からひょいと顔を出し、輝夜は参道を歩く人々の波に向かって手を振る。人混みの中で少年……青木慎之介が大きく輝夜に手を振り返した。

「慎之介くんもお祭り来たんだー」
「イエス！　屋台があるって聞いてたからな。それにしても月守……」
　輝夜のご近所さんの慎之介が、くすりと笑いながら輝夜の鼻をちょんと指した。
「綿飴、ついてるぞ」
「え、え？」
　輝夜は真っ赤になって慌てて鼻を拭く。その可愛らしい様子に慎之介が快活に笑った。

　特に慎之介が予定はないと言うので、輝夜は彼を誘い、屋台を一緒にまわることにした。
　食べ盛りに入っている中２男子が目をやるのは、勿論食べ物ばかり。イカ焼き、たこ焼き、焼きそば。屋台には食欲そそる食べ物が揃っている。
　それらを中学生が１人で全部買えば、すぐにお小遣いがなくなってしまうだろう。しかし２人なら話は別だ。輝夜の提案で、２人は仲良くシェアする事にした。
　ホカホカのたこ焼きを２人で一緒にパクリと頬張る。慎之介の嬉しそうな様子に、輝夜も笑みが零れた。

「ひな人形を家に飾ってるけど、慎之介くんも見に来ない？　と言っても毎年変わらないけど」
　折角だからと社殿の方まで行ってみる事にした２人。参道を歩きながら輝夜が慎之介に話しかけた。
「ＯＨ！　ひなドールか！　俺縁がないからな～」
「飾ると部屋が華やかになって嬉しくなるよ。お父さんは一緒にゲームしようって言ってたし、お母さんは大盛り料理作るから挑戦しない？　って言ってたよ」
「大盛り料理？　何だろう」
「……ひなまつりだし、雛あられの大盛りとかかな？」
「すっごい料理だな、それ」
　マイガッ！　と慎之介はおどけて天を仰ぐ。輝夜もくすくすと笑った。
「口の中ぱさぱさしそうだよね……えっと、頑張ってね。陰ながら応援してるから！」
「任せろ！　そん時はネバーギブアップだ！」
　むん！　と慎之介が胸を張る。輝夜がまた楽しそうに笑った。

　社殿の方まで着いた２人は、境内を散策した後、流し雛をする事にした。
「何て書くんだ、月守？」
　社務所で貰った薄桃色の紙を手に、慎之介が輝夜を覗き込む。輝夜は慎之介ににこりと笑った。
「んー、『慎之介くんがテストで赤点になりませんように』にしようかな」
「リアリイ？！」
「ふふっ、冗談だよ」
　微笑む輝夜に、慎之介は本気で自分の願い事を勉強関連にした方がいいかもと考え始めた。
　流し雛を前にうんうん唸る慎之介の横で、輝夜はそっと自分の紙に願い事を書き込んだ。

　それは、恋のお願い。―――隣にいる大好きな人には、内緒。