母の日に｜リアクション

母の日に

●親猫さがし

　八神修は、ふらりと街をぶらつきウインドウショッピングしていた。
　粗品のカーネーションが配られている。
「母の日か……」

　八神の母は、父の支援者と共に活動する事が多く普通で言う親子の会話には乏しかった。
（常に俺の出す成果の更に上を期待する父と違い、母とは成績の話すらない。
　料理も使用人に作らせるから、俺は母の手料理にも縁が無い。
　それは普通で言うなら寂しい事なのだろうな）
　だが、寝子高への進学に反対しなかったのも母だった。
（無関心からなのかも、しれないが、な……）
「ん、あれは……？」

　斎藤光成は、母の日モードな雰囲気にあてられて、なんとなく落ち着かなくて……うろうろしていた。
　光成は、基本的知識や妙な知識はあるのに自分のことは何も覚えていない。
　カーネーションは赤？　白？　……そもそも宛先も分からないし。
「だから母の日なんて僕には関係ないけど……なぁ、猫、お前にも親猫はいたのか？」
　駅前で拾った名前のない猫を抱えて、光成は問いかける。
（拾った時は近くにいなかったのかもしれないし……人間が捨てたなら親猫は知らないかも。
　探してみようか）

「こんな模様の猫知らない？　猫を捨てた人間を見かけなかった？」
　そんなときに修は猫と光成に気づいたのだ。
「知らないな……親や飼い主を探すにはこの島は猫が多すぎると思う」
「そうか……」
　光成は、だんだん自分の親を探してるような気分になってきた。
「僕の母さんを知らない？　僕をどこかで見かけなかった？　偶然持ってた荷物にあった光成の名前、本当に僕の名前かな？」
「おい……」
「……なんて、うん、ごめん。猫の親探しだったね」
　猫も気になるし、頼りなげな光成を放っておけなくなった修は言った。
「仕方ないな、一緒に探すか」

　あちこち歩き回り、気がつくと修と光成は学校に来ていた。
「あら、どうしたの～？」
　桜栄あずさ理事長に声をかけられる。
「暇だったもので」
　修は曖昧に答えた。
「あの、こんな模様の猫知らない？　猫を捨てた人間を見かけなかった？」
　光成は理事長にも尋ねる。
「さあ……ところで、お願いがあるのよ」
「なんですか？」
　頼られるのは嫌いじゃない修である。
「これなんだけど……」
　理事長が出してきた箱には、子猫が二匹。
　ミイミイ鳴き声をあげている。
「え……」
　絶句する二人。
「校門のところに捨てられてたのよ～。なんとか飼い主見つけてもらえない？」
「わかりました」
　答える修に、理事長は言う。
「いつも助かってるわ～。頼れるわね」
「いえ、動物には縁があるようですし、放っておけませんから」
「僕もこの島に流れてきて、拾われて、最初はなにがなんだか分からなくて……でも、あたたかくて嬉しかったから。
　まだ何も、恩を返せていないんだけど……」
　自分自身が捨て猫でもあるかのように、光成も言った。
「母の日ってようするにありがとうって言う日だから、何か、贈ってみようかな。……うん、そうしよう。
　なんだ……僕も……何もないわけじゃないよね」
「……」
　光成の猫が、子猫たちをなめてやっていた。

　夜に星ヶ丘寮に戻った修は、使用人が作った料理を興味なさげに一瞥した。
「ただいま、ミルク……？」
　飼い猫に声をかけて、テーブルの上の荷物に気付く。
　差出人は母だ。
　中を改めるとスーツだった。
「修さん。夏休みには一度帰ってきて下さい」
　の手紙と共に。
（義務か体裁か、それとも別の何かが動機なのか……）
「馬達にも会いたいし、行きますよ」
　つぶやいて、手紙はどうでもいい、とそのままゴミ箱へ投げ入れたけれど。
「ありがとう、って言う日か……」
　光成の言葉が、ふと頭によぎった。