母の日に｜リアクション

母の日に

●一日の終わり

　楪櫻は日用品を買いに街に出ていた。
　花屋の軒先でカーネーションを見て、そうか、今日は母の日か……と気付く。
（直接渡す事は叶わんが、遺影の前に飾れば喜んでくれるだろうか）
　そう思い二輪ほど買った。

　その帰り道。
「あれ、櫻ちゃん？」
　相原まゆ先生と遭遇した。
「こんにちは、先生」
　身長147cmの小柄なまゆ先生。
　道端で会うと、いつも以上に可愛らしく見える。
　かたや169cm、白いYシャツにジーパンのユニセックスな服に、髪は一つ結びを解いている櫻。
　どう見ても自分のほうが年上に見えるだろうな、と櫻は内心苦笑する。
「カーネーションだね」
「ええ……遺影の前に飾ろうと思います」
「櫻ちゃんは、お母さんのこと憶えてるの？」
　……普段は親の事を他人に話す事は無い、が………。
（今日ぐらいはいいかもしれんな）
　相手がまゆ先生であることも大きい。
「母さんは……とても優しい人でした。でも、間違った事をしたらきちんと叱ってくれる、芯の強い人でもあった」
　まゆ先生は頷いて聞いている。
「抜刀術は母方の祖父の影響ですが、母も学んでいました。刀を持つ母は、幼心にとても格好良く見えたのを、今でも覚えています」
「憧れのお母さんだったんだね」
「……母さんも、もちろん父さんも……大好きだった。二人とも、親として人として、尊敬できる人達でした」
「素晴らしいご両親だったんだね……」
「だからこそ、両親にいつ見られても恥ずかしくないようにと、自分を律していこうと決めているんです」
「そうだね、でも」
　まゆ先生は、真っ直ぐに櫻を見て優しく言った。
「たまには、甘えてもいいんだよ？　ご両親も、きっとそう思っているはず」
「先生……」
「こう見えても、大人なんだからね？　あたしで良かったら、いつでも甘えて」
「……ありがとうございます」
　カーネーションを飾ったら、母さんに話しかけてみようか。
　そんなことを思いながら、櫻は先生と別れた。

　お墓の前に夢宮瑠奈は立っていた。
「ママ。あたしは今、ママに頑張って近づいてるよ。少しずつ、本当に少しずつだけど」
　白いカーネーションを供えながら語りかける。
「もう一度ママと逢えるような、ふしぎなちからが手に入ればよかったんだけれどネ……」
　自身のろっこんは何の役にも立たないことを思う。
　この不思議な、でも無害な力。
　ただ演出として喜ばせることのできる、小さな奇跡。
　だから。
「ママ、ずっと見てて。寝子高だけじゃなく、世界にあたしの名前が知れ渡るまで」
　瑠奈は思いを込めて歌いながら、ウィンクする。
　風が円状に広がるように吹く。
　思いを広げるように……
　
　様々な思いは結局「ありがとう」「だいすき」の心。
　

　木天蓼市内。
「あぁ、そんなこともあったっけなあ。可笑しかったな」
　民谷鋭二は、父親のマンションで母の思い出話に花を咲かせていた。
　予想通り、部屋のドアを開けた瞬間飛びついてきた親ばかな父だった。

「おっと、話し込んでたらいつの間にか随分暗くなってるな。親父、晩飯食いに行こうよ。勿論親父のおごりで」
　そのとき電話が鳴った。
「電話鳴ってるぞ。誰から？　……って、え？　婆さん？」
「……し、しまった、電話するのすっかり忘れてた！」
　祖母には頭が上がらない。
　二人して青ざめた民谷親子だった。
「ごめん。親父と話してた。うん、電話するつもりだったんだけどさ……」

　フツウの日曜日とちょっとだけ違った、母の日が終わる。
　溢れるそれぞれの思いを、少しでも伝えようとした一日。
　きっと思いは、届くことだろう。
　

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あとがき

担当マスター：天村花海
ファンレターはマスターページから！

ご参加くださった皆様、ありがとうございます。
十人十色と申しますが、正に二十人それぞれの母子関係、人間模様。
心が温かくなる素晴らしいアクションをありがとうございました。
ご納得いただけるリアクションになっているといいのですが。

今回はガイドで一日のうちの出来事という決めごとがありましたので、
前日のアクションなどが多少変更されておりますが、ご了承ください。
それでは、次のガイドでまたお会いしましょう。

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母の日に

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