母の日に｜リアクション

母の日に

●母の日の朝

　日差しがカーテン越しに注ぐ朝の７時頃。
　汐崎ハイエはベッドでまどろんでいた。
　弟は日曜だというのに早くからサッカー部の練習に出かけ、父も出勤していて、家にはハイエだけだ。
　用事もないし、このまま弟が戻る昼まで寝ていようか……

　そんなところに電話が鳴った。
「もしもし……あ、お母……ママ。フオメンタ（おはよう）」
　ハイエは眠い目をこする。
　フィンランドの母からだ。
（そういえば今日は母の日だったわね）
「うん、元気よ。彼はサッカーの練習に出かけてるわ」
（母の日だからって日付変更と同時にかけてこないでよ……）
　日本とフィンランドの時差は－７時間。
　日本が７時なら向こうは深夜０時だ。
　眠いので早く切りたいが、そんなのお構いなしな母親の話は続く。
「うん……ママは元気？　母の日だよね。いつもありがとう」
　面倒なのが口調にでないよう気をつけながら、母親を気遣い感謝の言葉を伝える。
「ん……友達もたくさんできたみたい。サッカーもがんばってるよ。うん、大丈夫」
　高校に入るまで弟は母とフィンランドで暮らしていた。
　子離れできず特に弟に甘い母は、日本でうまくやっているか気になるのだろう。
「帰ったら電話させるわ。ヘイヘイ（さようなら）」
　約束して、ようやく電話を切った。

（いい天気……）
　二度寝するつもりが目が覚めてしまった。
　このまま寝ているのももったいない。
　出かけてみようか。
　母親のおかげで爽やかな日曜の朝を過ごす事ができそうだ、とハイエは思った。

　御鏡聖は巫女服姿で寝子島神社の境内を掃除していた。
　高校に上がる時、一人暮らしをしたいと両親に相談したところ、反対した父親と大喧嘩になった。
　結局、寝子島神社に住み込みでの修業をしながら高校に通う事を条件に許可をもらったのだが。
（母の日ですか……高校へ上がる時にお母さんには随分と苦労を掛けてしまいましたし、これを機にもう一度お礼を言っておきたいです）
　でも、実家に帰ればお父さんが居るだろう。
（お父さんにはまだ会いたくありません）
　喧嘩のときのことを思い出し、聖はぷうっと頬を膨らませた。
（電車で実家の近くまで行った後、近くの喫茶店でお母さんに会いましょう）
「そうと決まれば、カーネーションを買ってこないと、他にも綺麗な花を用意したいですね」
　神社の掃除は巫女の修行だが、楽しみもある。
　時々狐が九夜山から下りてくるのだ。
　今朝も下りてきた狐に、用意したお菓子を分けてあげる。
「綺麗な花……貴方は何か知っていますか？」
　花の注文なら心当たりがある。
「境内の掃除が終わったら買いに行きましょう。貴方も一緒に行きますか？」
　狐は返事をしなかったけれど、丸い目で可愛らしく聖を見つめた。

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