コロコロ｜リアクション

コロコロ

ダイス　１（ＰＣの思うがまま）

　七峯亨が自室のベッドに腰掛けている。周囲の床には真新しい衣類が何着も脱ぎ捨てられていた。
「どいつもこいつも微妙なんだよなー」
　間延びした声で後ろに倒れ込む。何となく天井を眺めて起き上がった。
　机の上に無造作に置かれたノートを開いた。立った状態でペンを走らせる。
『店なんか気にしないで、お気に入りのセットが見つかるまで試着を続けたい』
　一頁を切り取って折り曲げた。いそいそとベッドに戻り、枕の下に仕込んだ。
「ま、試すのは自由だからな」
　部屋の明かりを消した。満足そうな顔で深い眠りに落ちていった。

　巨大なスタンドミラーに下着姿の亨が映っていた。どこか驚いたような表情をしている。
「ここは、どこなんだ？」
　鋭い眼光で身構える。その警戒は瞬時に解けた。
　至るところに衣類が置かれていた。商品棚やハンガーラックの数は多く、一目で把握できるものではなかった。
「店なら人がいるだろ」
　目は店員を探した。おーい、と適当に呼び掛ける。周囲は静まり返っていて誰もいないようだった。
　スタンドミラーに改めて目を向けた。自身の下着姿に苦笑した。手近のハンガーラックから一着を掴み取り、身に纏う。
「ぴったりだぜ」
　見開いた目で次の一着を試した。今度は軽快な動きを加える。
「おいおい、これもかよ」
　滲み出る笑みで商品棚に向かう。赤いシャツに合わせるように白いスラックスを穿いた。
「本当にぴったりだ。つまり、あれか。サイズは完璧で、品揃えも十分で俺にぴったりな最高の一張羅を選び放題ってことなんだな」
　背中が丸くなる。縮こまった姿で震え、急激に背筋を伸ばした。
「ここは天国か！」
　完全に浮かれた。弾むような足取りで試着を繰り返す。所々にある巨大なスタンドミラーを前にして単独のファッションショーに勤しんだ。
　ふと手にしたスーツに目を落とす。
「ここはフォーマルがメインみたいだな」
　その時、一つのドアに目がいった。簡素な作りは従業員の控室のようにも見える。
「行ってみるか」
　躊躇いのない態度でドアを開けた。目に原色が飛び込んできた。
「こっちはカジュアル系か！」
　帽子やスニーカー、指輪等のアクセサリーも充実していた。
「これはすげーぜ」
　十本の指に種類の違う指輪を幾つも嵌めた。カンカン帽を被り、目に付いたドアに飛び込んだ。
「和服かよ！」
　シャツの上から甚平を羽織る。象牙の根付の細工に顔を近づけて感激した。すげー、という声を何度も上げた。
　着流しも試してみた。羽織との組み合わせに満面の笑みを浮かべる。帽子を黒いカウボーイハットに変えた。少し深めに被って角度を付ける。
「いいじゃねぇか。どんどん試していこうぜ！」
　極上の時間を満喫した。部屋から部屋を渡り歩き、様々な異文化に触れて組み合わせを試していく。
「こんなの見たことねぇよ！」
　スタンドミラーに映る亨が豪快に笑った。たくさんの衣類に囲まれて幸せの絶頂を迎えた。

　上半身を起こした。頬の辺りに両手を添えて軽く揉み解す。
「すげー、はっきりした夢だったな。笑ってばっかりで顔が凝ったぜ」
　両手を回すようにして動かす。急に動きを止めて、そうだ、と声を出した。ベッドを離れて急いで机に向かう。
　開いた状態のノートに夢の記憶を書き込んでいく。その組み合わせの多さは無限を思わせた。
「このコーデはなかなかだよな」
　亨の表情が緩んだ。夢の中と同じような笑顔になる。
「あー、顔がだりー」
　片方の手で頬を揉みながら笑顔でノートに綴っていった。

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