母の日に｜リアクション

母の日に

●旧市街にて

　恵御納夏朝は寝子島外に住む母に、手紙とプレゼントを送ろうと思い立った。
（届くの、明日以降になるかな……）
「旧市街に、お手紙セットとプレゼントを買いに行こう」
　元は欧州人のお母さんは、日本と日本文化が大好き。
　お手紙もプレゼントも、和風のものにしたい。
「封筒、大きめのがいいよね……あるかな」
　とはいえ、プレゼント選びはなかなか難しい。
（何にしよう……かんざしとかなら喜ぶかな？）　
　和装小物の店を見るも、けっこう高い。
「カーネーション……手紙に入れたら折れちゃうかな……カーネーションの栞とか、ないかな……」
　旧市街の店をあちこち見て回る。
　迷いつつも、お母さんの反応を想像すると楽しい。
「あっ……」
　猫をデザインしたかんざしを見つけ、つい手にとった。
「これ、かわいい……」
　そのまま離せなくなる。ここで見つけたのも縁かもしれない。
（きっと喜んでくれるよね）

　
　店を出た夏朝は、コンビニの前で見覚えがある顔を見つけた。
「あ、恵御納ちゃん」
　同じクラスの千代島白雨が声をかけてくれた。
「あれ、恵御納ちゃんって家こっちのほうです？」
「ううん、僕は桜花寮住まいなんだけど、母の日に和風のものを贈りたくてこっちに出てきたの」
「そうですか。母の日……うちにはあまり関係の無い話ではあるのですが……」
「え？」
　夏朝の怪訝な表情に、白雨は説明する。
「……いえ、違うのです。うちはお父さんが単身赴任中で、此処が母方の実家なので一緒に暮らしているのですが」
　祖父母は白雨が小さい時に亡くなって、共働きの母の勤め先は本土だ。
「問題は今日が、お母さんがお父さんの赴任先へ押しかけていってる日ってことなんですよ……」
　ラブラブ。月に一回以上は必ず会う程度にはラブラブ。
「今日も会いに行ったお母さんに『今日は母の日だからね、俺がご飯の支度するよ』とか言っちゃうんですよあのお父さんは……！」
　だから母の日は毎年お母さんはうちに居ないのだという。
「たまに思うのですが何でしょう、この一人暮らし感は……
　毎年の恒例行事ながらいつまで新婚気分！　って突っ込みたくなりますよ……」
　苦笑交じりに白雨は言った。
「でもそう聞いたらきっと、死ぬまでって声揃えて言っちゃうんでしょうねー」
「……仲が良くていいね。うちも仲いいほうだとは思うけど、お父さんあまりしゃべらないからなあ」
「母の日に私が出来ることは毎年、一つだけ。
　ピッカピカの綺麗な部屋でお母さんを何時も通りに『おかえりなさい』と満面の笑みで迎えるだけ」
「……偉いなあ。素敵なプレゼントだと思う」
「掃除の途中で買い出しに出てきたんですけど。恵御納ちゃん、もし良かったら一緒にお昼どうですか？」
「いいの？　それじゃよろしく……お勧めのお店あったら教えてね」
　二人はお互いの家のことやクラスのことを話しながら、楽しいお昼を過ごした。

　
　コンビニでお気に入りのお菓子を買って、白雨は家に戻る。
　一人の掃除は思考が悶々と巡るばかりだったけど。
　夏朝と話してすっきりすることができた。
　箒は部屋をどんどん綺麗に変えていく。
「今年だってピッカピカで迎えるんですからね！
　さあ、お掃除の続きを頑張りますよー！」
　お母さんの笑顔が目に浮かんだ。
　
　帰宅した夏朝も、手紙を書きはじめる。
『お母さんへ。（お父さんも）元気かな？　かーさは元気です』
　さて、どんな事を書こうか。
　寝子島での忙しくも楽しい日常、
　猫さんも猫好きな人も沢山いて嬉しい事……
　最近は色んな不思議な現象に関わる事が多くなって……
「……ろっこんの事は……今はまだ秘密にしておこうっと」
『お友達もできてうまくいってます。
　この前は、猫型のロボットを作りました……』

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