！かうょきいえのんこんしたま｜リアクション

！かうょきいえのんこんしたま

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　昼下がり。
　今日は仕事も休みということで、真境名アリサはアウトレットを適当に見て回っていた。
　５月も下旬ということで、そろそろ夏物の服とか、あとは店で着用する水着だとかを物色しておこうかと、まあそんなところだ。
　特にこれ、というアテがあるわけではないけれど。物色してるだけでも楽しいし……楽しい……？
　（どれ見てもどうでもよく思えてくる……）
　何故だろう。どんな服も水着も、代わり映えしなくて、どうでもいいもののように思えてしまう。
　仕事柄もあって、ファッションだっていい加減にするわけにはいかないのに。服にしろ水着にせよ、自分のスタイルの一部なのだから。
　けれど、何故かそういう気分になれない、ならない。別にどうだってよくない、と。そんなことを考えてしまう。
　そして、そんな自分に苛立ってしまう。
　（もしかして、思ったよりストレス溜まってる……？）
　副店長になったとはいえ、休みはちゃんと適度に取っているし、疲れもストレスもあまり溜まっていないつもりでいたのだけれど。実は、気付いていないだけだったのだろうか。
　でもそんなストレス溜まるようなこともなかったし、と考えれば考えるほど思考は苛立ちの泥沼へ。
　とりあえず、どこか喫茶店かファーストフード店にでも入って、気分転換しよう。
　そう思ってファッション店から踵を返したところで、
「そこのお美しいお嬢さん」
　声をかけられたのだった。

　アケーチ・タッマーキは変態である。
　老若男女を問わず、素敵な人を見つければ、こっそりストーキングしてトキメキを得たりするタイプの変態である。
　しかしどういうわけか、今日は少し様子が違った。
　素敵な人を見つけたら、声をかけずには要られなくなったのだ。
　（あぁ、これも生きとし生けるもの全てへの愛おしさ故ですね！）
　……もとがもとだけあって、大して気にはしていないみたいではあるけれど。
　寝子島のアウトレットまで足を伸ばした折も、変わらずそんな調子のままで。
　だから、
　（あの艶めく黒のロングヘアも、すらりとしていながらも美しい曲線を描くスタイルも、なんと美しい……！）
「そこのお美しいお嬢さん」
　アリサを見かけて声をかけたのは、必然だったのだろう。少なくとも、今日に関しては。

　振り返れば、そこにはスーツのイケメンが――タッマーキが居た。
「……何？」
　応じたアリサの声は、普段から考えられないくらい低くて陰気なソレだった。喉の調子がおかしいのか、それともこれもストレスのせいか。それにしたってあんまりな自分の声に、ますますイラつきが加速する。
「おぉ、陰のある声もなんと素晴らしいのでしょう！」
　うっとりと悦に浸るタッマーキの様子にも、イラッ。
　そんなことはつゆ知らず、タッマーキはすすっとアリサに歩み寄る。そのまま身を乗り出すような勢いで、
「あぁ、貴方を更に美しく彩りたいです、ふふ……！　もしくは、貴方のその美しい姿を絵の中におさ、」
「邪魔」
　自分でも、びっくりするくらいの低い声だった。虫の居所が悪いと、こんな声が出せるものなのか。
「あたし、今すっごい機嫌悪いの。もしかして、そのせいでチョロそうに見えたのかもしれないけど、だったら残念大外れ」
「ふふ、今日の私は積極的ですから、邪魔と言われることも覚悟の上――ッ！？」
　タッマーキが不意に黙ったかと思うと、その目の端に涙が浮かぶ。
　アリサが、ブーツの踵でタッマーキの足を踏んづけていた。
　ドMのタッマーキだが、それはそれとして不意打ちで足を踏まれれば、そりゃあ痛い。
　足を抑えて跳びはねるタッマーキをよそに、アリサはその場から足早に去っていく。
　そうして、振り返ってもタッマーキの姿が見えなくなったあたりで我に返る。
　（何やってんの、あたし……）
　思わずため息が漏れる。
　……なんかもう、めちゃくちゃだ。

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