おひなさまのないしょ話｜リアクション

おひなさまのないしょ話

○一緒に歌おう♪

「おはようございまーす！　……あ、今日はパパもママもお仕事の日だったね！　今日の朝ご飯はなにかなー？」
　ある休日、１３歳の渡辺美里愛は元気に両親に挨拶した。
　父は北欧系、母は日本とイギリスのハーフだ。
　父親似の銀髪碧眼で黙っていればクール系美人の美里愛だが、喋ると子供っぽいおしゃべりな女の子だ。
「わー、おひなさまだー！　昨日の夜にパパが準備してたもんねー！　すごーい！」
　美里愛のおひなさまは豪華七段飾りだ。
　ご飯を済ませ両親が出かけた後、美里愛はおひなさまの前で飛び跳ねた。
「おひなさますてきー！」
『元気な子ね』
　突然聞こえた声に美里愛は目を丸くする。
「……あれ、今のだーれ？」
『私たちよ』
「おひなさまだー！　おしゃべりできるのー！？　すごーい！　ミリアは渡辺美里愛っていいます！　よろしくね！」
　美里愛は素直であまり細かいことは考えない。
　おひなさまと話せることに無邪気に喜んだ。
『よろしくね。ひなまつり、楽しみにしていたの？』
「うん！　あのねー、ひなまつりの日にはパーティーするんだよ！　ママがちらしずし作って、パパがケーキ作るの！　どっちもすっごく美味しいんだよー！」
　夢中でしゃべり続ける美里愛を、お雛様たちは微笑ましく見守っているようだった。
「おやつは桜餅とひなあられなの！　それでね、三人で一緒におうた歌うのー！」　
　そう言った美里愛は何かを思い付いたようで、青い目を生き生きと輝かせた。
「……あ、そーだ！　折角だしみんなで歌いたいなー！」
『私たちと？』
　面白そうに言ったお雛様に、美里愛は笑顔で頷いた。
「今からミリアが歌うから、みんな覚えてね！　♪～」
　ミリアは大声で楽しそうにひなまつりの歌を歌いだすが、あまり上手ではなく……むしろけっこう音痴だった。
『元気に歌えたわね……』
「覚えたかなー？　じゃあこんどは、一緒に歌ってみよー！　おひなさまもおだいりさまも、三人官女さんも五人囃子くんも、みーんないっしょに！　せーのっ！」
　普段演奏専門の五人囃子も、声をそろえて歌ってくれた。
「すごい、上手！」
　美里愛はパチパチと拍手をした。
「へへー、楽しかったね！　パーティーの日にもいっしょに歌おうねー！」
『そうね』
　神魂の効力が消えてしまえば、もう雛人形の声は聞こえなくなるのだが。
　気づいてくれなくても一緒に歌おう、と雛人形たちは思っていた。
「あっ、もうこんな時間。それじゃあ、ミリア遊びに行くお約束してるから行ってくるね！　いってきまーす！」
『いってらっしゃい』
　駆け出していく美里愛を、人形たちは静かに見守っていた。

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