おひなさまのないしょ話｜リアクション

おひなさまのないしょ話

○妹のおひな様達

『まだかなあ』『早く出してほしいわ』
　家の中から聞こえた話し声に、鴻上彰尋は最初、弟や妹か隠れているのかと思った。　
「何してるんだ？」
　しかし声のする場所には、子供が隠れられるスペースはない。
　どうも変だ、と箱を開けてみれば、声はしまってある妹の雛人形から聞こえているのだった。
『やっと開けてくれた。早く出して』
　驚きつつ彰尋は納得する。
「そういえばそろそろ出す時期なのか……」
　お内裏様にお雛様。三人官女に五人囃子……随臣に仕丁……ひとまず人形達を全員出してやった。
『久しぶりにでられたのお』
　そう言う随臣を見て彰尋は気づいた。
（出したはいいが……、本当に飾れるのは多分、お内裏様とお雛様だけだ）
　妹が生まれた時の家はいまの家とは違って大きくて、七段なんて大きなものを用意していたけど、いまの家では本人の寝る場所を奪ってしまうから飾っていないのだ。
　家は母子家庭で母と兄が働いているので、彰尋が家事と幼い弟妹達の面倒をみている。
「ごめん、いつかは飾れるようにしたいのだけど……場所がなくてまだ飾ってあげられないんだ」
　きっと他の人形達は不満だろうなぁ、と思いつつ謝る。
『私も飾られたい……！』『その他大勢はともかく』『女の子のお祭りに三人官女がいないなんて』
『その他大勢って……』　
　男雛たちは苦笑しているようだ。
（三人官女は女の子三人で姦しい感じか……五人囃子や随臣仕丁達もみんな同じ気持ちかなぁ）
『無理は申しますまい、最近は住まいの事情も厳しくなっておりましょう』
　随臣の言葉に、彰尋は申し訳なく思いながらどうにかできないか考えている。
　ちょうどそこへ妹が顔をだした。
「誰と話してるの？　……わあ、おひなさまだ。すごい、こんなに」
「飾ることは無理なんだけど……そうだな。多分、おまえがものごごろついて全員を見るのは初めてなんじゃないかな」
『おお、大きくなられた』『赤ん坊の時にお会いしてからとんと箱を出ることが叶いませなんだ』
「だから、よかったらだけど妹とお話ししてくれたら嬉しいんだけど……声、聞こえないのかな」
　やはり妹には聞こえないようだ。なら通訳してやろうかと、彰尋は妹に尋ねる。
「おまえもなにかお雛様に話したいことがあるかい？」
　妹は少し考えて、話し始めた。
「……え、友達の家とうちの家のお雛様達の並び方が違う？　はて……」
　間違わないよう並べているはずだ、と首をひねる彰尋に、内裏様が答えてくれた。
『ああ、それならおそらく……』
「え、京雛と関東雛で左右が違うのか……なるほど、教えてくれてありがとう」
　怪訝な顔の妹にわかりやすく説明する。
「うちのお雛様とお友達の家のは出身地が違うんだよ。生まれたところが変わると、並び方も変わるんだ。ん？　誰に聞いたんだって？」
　半分は納得したらしい妹の問いに、正直に答える。
「それはね、お雛様達だよ」
　なんとか二段飾りにして、交代ででも出してあげられないか……と思う彰尋だった。

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