おひなさまのないしょ話｜リアクション

おひなさまのないしょ話

○おひなさまとお話

　今年もひなまつりの季節がやってきた。
　星ヶ丘の自宅で、５年生の佐藤瀬莉はツインテールを揺らしながら雛人形を並べていた。
　瀬莉の家は大金持ちで、雛人形は三段１７人揃い、職人が丹精を込めて作った特注品だ。
　１７人？　数が合わないと思われたろうか。五人囃子ではなく七楽人が並んでいる。
　ちなみに五人囃子が演奏しているのは能楽で、楽人が演奏しているのは雅楽なので楽器も違うのだという。
「雛人形を段に並べるときってわくわくする」
　わくわくというか、華やかな人形を見ていると心がときめいてくるというか……
　懐中時計いじりの細かい作業が趣味な瀬莉は、人形を並べるのにもこだわりがある。
　人形を所定の位置に丁寧において、それから各種の飾りとかも綺麗に見えるように置いて。
「……こんなものかな？」
　いろんな角度から、セットしたばかりの雛人形を見てうっとりする。
　……と、どこからか声がした。
『瀬莉ちゃん、瀬莉ちゃん』
（女の人の声……ママじゃないよね、今仕事に行ってるし。お手伝いさん……でもないし……ていうか、雛人形のほうから聞こえた？）
　まさか、とまじまじとお雛様のほうを見ると。
『気づいてくれたのね』
　とお雛様がこちらへ話しかけてきた！
（え？　どうなってんの？）
　と思った瀬莉だが、すぐに気を取り直して、
「お話しできるの？」
　とお雛様に聞いた。
『ええ、いつもお話はしているのだけど。今日はなんだか聞いてもらえそうな気がしたの』
　答えるお雛様に、神魂のせいかな、と思う瀬莉。
「お内裏様とかもみんな話せるの？」
『ああ。瀬莉ちゃんすっかり元気になって良かったね』
　お内裏様も声をかけてくれた。
「すごい、お雛様たちとお話しできるなんてめったにないよね」
　実は瀬莉はろっこんで機械と会話することができるので、お雛様とも話せないかな？　とちょっと思っていた。
　でもお雛様は機械ではないから無理かと諦めていたのだ。
　嬉しくなった瀬莉は、何を話そうかどきどきしながら考える。
「あたしの病気のことも知ってるの？」
『もちろん。赤ん坊のころから見ているからね』
　瀬莉は幼い頃、大病を患い一時は死の境を彷徨ったことがある。
　現在はほぼ回復しているが、心のどこかでまた再発するんじゃないかという不安があった。
『私たちも、ご回復をお祈りしておりました』
　三人官女が言えば、
『僕らも早く治るように、心をこめて演奏していたよ』　
　七楽人も声を揃えた。
「ありがとう。あたし元気になったよ。もう病気にならないよう、応援してくれる？」
『喜んで。それが私たちの務めですから』
　お雛様たちの声に、瀬莉は心の奥のもやもやした不安がふっと消えていくような気がした。
　　
　

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