【星幽塔】第一階層　ほしびとと共に、或いは、塔と愉快な仲間達｜リアクション

【星幽塔】第一階層　ほしびとと共に、或いは、塔と愉快な仲間達

【決着】

　新田亮は辛抱強くその瞬間を待っていた。
（まだ黒い鈴は現れない……。もう駄目なのか……）
　そう思ったまさにそのとき、中庭の西側と東側からほぼ同時に黒い鈴とそれを追う仲間達の姿が見えた。
「チャンスだ！　東西から挟みうちにして、鈴を追いつめるんだ！」
　亮はこの千載一遇のチャンスをものにするために、風の便りを使って仲間達にメッセージを届けた。

　西側から中庭にやってきた雨崎荒太郎は、念力で中庭の中空を飛びながら、亮の風の便りを聞いた。
「あ、ほんとでがんす！　あっちに東側のみんなが見えたでがんす！　よーし、あとはもう思いきり念力をぶつけてやるだけでがんす！」
　荒太郎はそう言って、ろっこんの念力を全力で前方の黒い鈴にぶつけた。

　東側から中庭にやってきたオルカ・ヴィヴァルディと来島アカリもまた中庭に入ると同時に亮の風の便りを聞いた。
「おー、ほんとだ。あっちにみんなが見えるね。よし、アカリくん、俺に考えがあるんだけど、あの黒い鈴の動きを水の柱で向こうの鈴の近くまで誘導してくれない？」
「……？　わ、わかった、やってみるっ……！」
　オルカの言葉に、アカリはぐっと杖を握り直した。
（……俺、今回ドキドキしっぱなしで役に立ててない。せめて、これくらいしないと……）
　アカリは水の柱を出現させて、黒い鈴の動きを制限し、誘導していく。
「よし、今だ！　いっけ！」
　と、そこでオルカは剣先から一気に水を放出して黒い鈴を後ろから無理やりに加速させた。

　そして、中庭の中央で、それは起きた。
　西側からは念力で押された黒い鈴が、東側から水で押された黒い鈴が、中庭の中央あたりで真正面から衝突したのだ。
「あ……」
　それを見て、恵御納夏朝は思わず声を上げた。
　あらゆるものを溶かす性質を持つ二つの黒い鈴が正面からぶつかりあい、互いを溶かし始めたのだ。
「……どちらも消えましたわ」
　やがて、跡形もなく消えた二つ鈴を見て、上下左右は感嘆の吐息を漏らした。
「……なるほど。こうすれば良かったのですね……」
　と、ジルベルトも納得顔で頷く。
　そのとき、『キヒヒッ』と笑う少女の声が聞こえて、そこにいた誰もがあたりを見まわした。

『あーアー……。せっかくまだ未熟な現射手座のアステリズムを始末できるチャンスだったのにナァ……』

　声の主は、中庭の中央のあたりにいた。

「「「「「！？」」」」」

　これまでに何度か姿を現したことのあるその黒影の少女の姿と言葉に、彼女を知る者達は一同に驚きを露わにした。

「……アステリズムを、始末する？」

　フランチェスカも愕然とした表情で、その少女を見ている。
　その視線を少女の影はキヒヒッと笑って見つめ返し、

『……キヒヒッ……また会いましょう……次は失敗なんてしないんだからァ……』

　背筋がぞわりとするような笑みを残して、黒影の少女はドロンと姿を消した――。

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