雪に松明、夜空に花火、宇奈月温泉雪祭り｜リアクション

雪に松明、夜空に花火、宇奈月温泉雪祭り

■北条冬華の場合
　女の一人旅というのも、なかなかおもしろいものだ。
　北条冬華がとった部屋は和洋室というちょっぴり薄暗いベッドルームとゆったりと明るい和室が合わさったすこし変わったお部屋である。
　あえて人の手入れを最小限にして足跡をつけていない庭の雪景色。
　『雪つり加工』という、庭木の枝を棒と縄で支える和製クリスマスツリーみたいな木が並び、積もった雪を時折どさりと落としていく。
　足下から天井までをガラス張りにした窓からは、そんな光景が広がっている。
　一人がけのソファに身を沈め、外の風景を眺めるこの時間。
「静かで、いい場所ですね……」
　窓越しに眺めるのもいいが、やはりここは実際に外へ出て空気に触れてみるのもよかろう。
　雪と温泉。
　想像しただけで、贅沢な気持ちになってくる。

　ホテルでは色浴衣という特別な浴衣を扱っている。
　カラフルで種類豊か（少なくとも百種類はあったはず）な浴衣が棚にずらりと並び、その中から選ぶのだという。
　冬華はせっかくだからの精神で選んでみたのだが……。
「なんだか、ちょっぴり大きいですね」
　海外客向けに用意された割と派手目の柄の、それも全体的にゆるめに作られた浴衣である。
　こんな所でまで海外仕様にしなくても……と思う冬華だが、部屋備え付けの浴衣は男性用すらちょっと（主に胸元が）きついのだ。折角というか、もはや必然のなりゆきである。
　フロントスタッフの『その胸ではさぞ大変でしょう』という目が、なんだか優しかった。
　さておきお風呂である。
　柄的にもスタイル的にも目を引く冬華が向かったのは屋内の岩風呂だった。
　まずはここで身体を温めてから露天風呂へ行こうという考えである。
　ごつごつとした岩とまるみを帯びた柱と壁。
　そして庭に並ぶおかしなスタイルの木々。解説しておくと雪の重みで枝が折れないように縄で吊るすという伝統的なやり方で、雪国では一般のご家庭でも普通にやっている。
　ちらりと見ると、寝湯なるものがある。
　あさーくお湯が張られていて、身体前面だけを出した半身浴みたいなことができるお風呂である。
　なるほどこれはおもしろそうだと思って寝転んでみた。
　重い胸が……なるほど、なんだか軽い。
　この後、露天風呂で雪景色を眺めながら手足を伸ばしたり、冷たい空気と暖かいお湯に挟まれて夢心地になったりした。
　控えめに言って、極楽である。

　それから暫くして、夜。
　冬華は夕飯を挟んでから雪祭りに参加すべく駅前の通りへと出ていた。
　既に松明を持つ人々が列を作り、音楽に合わせてゆっくりと町を歩いている。
　パレードというと電飾をつけて派手な音楽と共にゴンドラを走らせるイメージだが、なるほどこれもパレードである。
　松明の炎が揺れ、それを持つ人々も揺れ、なんだか非現実的な世界に迷い込んだかのような光景である。
　お嬢さんお鍋はいかがと声をかけられ寄ってみると、地元の豚肉を使った鍋を振る舞うという。
　緒夕飯を食べた上で夜にまた豚肉を食べては流石に太るのでは……と思ったが。
「運動は、してますし……」
　とはいえこの寒い空の下。
　雪の残る道で大きな鍋をかき混ぜて、ショウガのちょっぴりきいた豚肉鍋を出されていえ食べませんとは言いがたい。これもまた人間の性分である。
　受け取ったどんぶりを手に、そっとスープを一口。
　豚肉のさっぱりした油とショウガの風味、そして彩り豊かな野菜の味わいが広がり、少し後にエビやカニのような甲殻ダシの風味が喉を抜けていく。
　そしてなにより、スープの温かさが胸を抜けて前進をじんわり伝っていくのだ。
　はあ、とついたため息が白く空へと登っていく。
　冬の寒空に鍋。
　ああ、なんと贅沢な時間だろうか。

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