カンゴクブレイク　～罪人がれ野火がごとく～｜リアクション

カンゴクブレイク　～罪人がれ野火がごとく～

■パーティーの夜
　監房の畳部屋。ちゃぶ台を囲むように四人の男たちが顔を合わせていた。
　それぞれトランプカードを扇状に広げ、互いの顔色をちらちらとうかがっている。
　扉側から順に、須藤清一郎、八神修、久須部紀伸、新田亮の四人である。
「ええか？」
「いつでもどうぞ」
「俺も、これでいい」
「あっしも充分ですぜ。勝負！」
　亮はカードを台に広げた。
「エースのスリーカードでさぁ！」
「エースのフォーカード」
「ロイヤルストレートフラッシュ」
「すみません、エースのファイブカードです」
「嘘つけえ！」
　亮はちゃぶ台をひっくり返した。
「なんでエースが１３枚もあるんだ！　おかしいだろ！」
　舞い散るカードをそのままに、肩で粗い息をする亮。
「くそっ、テメェらと賭け事なんかするんじゃあなかった。このイカサマ野郎め」
　指を突きつけられて、紀伸は肩をすくめて見せた。眼鏡の奥で目を細める。
「心外ですね。バレなければイカサマではないんですよ」
「今この瞬間にバレてんすよ！　ああもう、やってられませんや！」
「まあそう言うなて。もう一ゲームやろうや」
「うるせえや、監守に言いつけてやろうかい！」
「ヒヒヒ……」
　清一郎は軋むように笑うと、手をわきわきとさせた。
　呼ぶならあの女監守にしてくれや。綺麗な看守やからなあ、ベッドん中でひいひい言わせたいわ。
「そんな態度を取ってるから目ぇつけられるんすよ」
「…………」
　修は壁にぺたんと背をつけ、指を折って一秒ずつ数をかぞえ始めた。
「どうしたんでさぁ、急に」
「いや、情報だとそろそろなんだ。耳を塞ぐ準備をしておけ。３――２――１――」

　椿美咲紀は気が気でなかった。
　畳六畳ほどのスペースには自分を含めて女性が四人。
　これだけならまあ珍しくも無いシチュエーションである。社会経験の少なくない美咲紀にとって乗り越えられない壁ではない。コミュニケーション能力だってそれなりにある方だ。ガールズトークに花を咲かせることもたやすい。
　が。
「メンバーがおかしいのですよ」
　右を見ると朝鳥さゆる。
　左を見るとナタリア・シシロヴァ。
　正面を見ると添木牡丹。
　大量殺人鬼と凄腕の殺し屋に囲まれている。
　どう転んでもガールズトークができる相手ではない。
「大体私がこんな所にいるのがおかしいのですよ」
「ねえ、どうしたの？　うかない顔ね？」
　牡丹が身体を引きずるように寄り添ってくる。
　熱い吐息がかかるが、頭まで包帯まみれの牡丹に声をかけられてまともに会話をする自信は無い。喋る言葉をひとつ間違えたら目に指を突っ込まれかねない。美咲紀にとってこの牡丹という女はそういう存在だった。
「い、いえ、なんでもないのですよ。ちょっと外が騒がしいなって思って」
「騒がしい？　そうね、そうねえ、この音と臭い……知ってる臭いだわ。愛の香りがする」
　ぴくり。
　ナタリアとさゆるがそれぞれ顔を上げた。
　監房の扉が突如として開いたのは、まさにそんなタイミングだった。

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