みんなのおはよう｜リアクション

みんなのおはよう

【それでもさわやかな朝】

　目をこすりながら、時計を確認。時刻はきっかり、朝の７時。
「ん……いつも通り、だね。ふわぁぁ」
　次いで、下半身に覚えたじっとりとした感触を確かめるのも、白真白の日常のひとつです。
「下もいつも通りっと。早く変えよ……ううっ、寒！」
　シーツから這い出した途端に冷気が全身を撫でて、真白は枕元に用意しておいた着替えを引っつかむと、急ぎ足で階下へ向かいます。

　過去に巻き込まれた事故の後遺症が、真白の日常生活に、いまだひとつの日課を加えています。
　着替えを脱衣所へ置いた後、トイレへ入ると、夜の間にぐっしょりと湿っている紙おむつを外し、専用のごみ箱へ。
　他人とは少しだけ違う、余計な苦労を背負い込んでしまったと、時にはもちろん思うこともあるでしょう。失くした右目へ義眼を入れる時に、ちらとそんな思考がかすめることだってあるでしょう。
　けれど、
「いやー、慣れたもんだよね、これも」
　決して悲観的にはならないのが、彼女の特筆すべき、素晴らしい前向きさでもありました。真白の持つ天性の明るさ、ポジティブ思考は時に行き過ぎて、ちょっぴり調子に乗ってしまったりもするほどです。
　バスルームでしゅぱんと寝間着を脱ぎ捨てて、熱いシャワーを浴びるのもまた、彼女の日課。寝ている間にどうしても汚れてしまうもので、朝一のシャワーは欠かせません。
「あぁ、きっもちいいー♪　この時期のあったかいシャワーはやっぱり、たまらないよねっ」
　白い肌に手を滑らせて、首元へ、胸へ、お腹へ、おしりからふとももへ、足先へ。ゆっくり、じんわりと、熱を全身に取り込んでいきます。
　真白は決して、自分の人生が損なわれてしまったなどとは思いません。それどころか、いろいろなカラーの義眼を使い分けてオシャレの一部分にしてしまったり、なんてしたたかさまで備えているのです。
　すっかり身体が温まったら、良い気分でバスルームを出て身体を拭い、慣れた手さばきで新しいおむつを身に着けます。
　ブラジャーのストラップを肩にかけ、ホックを止めようとしたところで、
「……あれっ？　ちょ、ちょっときつい……？」
　豊かな胸の丸みを帯びたラインを両手で確認しつつ、思わず眉をひそめて。
「もしかして、またおっぱい大きくなったのかなぁ……？　新しいブラ買わないと……ううっ、また出費がかさんじゃう」
　真白はいつだって前向きで明るくて、そんな彼女を惑わせることといったら、むしろどこにでもありふれた、人並みの悩みだったりするのでした。

　制服の上にエプロンを身に着け、キッチンへ立つと、簡単な朝食の用意を。今朝のメニューは、
「トースト、牛乳、あとは……あ、ベーコンが残ってる。これでいっか」
　角食とベーコンをオーブントースターへ、カップ一杯の牛乳をレンジへ突っ込み、スイッチオン！　エプロンを着けた意味はあったのだろうか……という疑問が少々頭をかすめたものの、それもまたいつもの朝の風景です。両親はいつも大体海外を忙しく飛び回る生活を送っているので、どんな形であれ、自分のことは自分でしなければならないのです。
　決して苦にすることもなく、そんな日常を、真白は全力で、めいっぱいに楽しみながら、駆け抜けてゆくのです。
　程なく、あたたまったトーストと牛乳の軽い朝食をぺろりと食べてしまったら、
「っふー、ごちそうさま！　よーし、食べたら学校だー。今日も張り切っていこうっ」
　おーっ！　と腕を振り上げ、真白は元気いっぱい。気持ちの良い青空の下を、意気揚々と歩き始めました。

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