みんなのおはよう｜リアクション

みんなのおはよう

【華麗なる休日】

　セレブな星ヶ丘寮、海が見える一室にて。
　時刻は、午前９時過ぎ……ちょっぴり遅めの朝に、旅鴉月詠はカモメの鳴く声とともに目を覚まします。
「………………」
　ぼーっとして、ひとしきり、眠そうな目をぱちぱち。いつもなら、学校へ行く時間はとっくのとうに過ぎていますけれど、大丈夫！　今日はお休み、寝過ごしたって二度寝したってオールオッケーな、優雅な休日なのです。
　というのもあって、昨夜は少々夜更かしをしてしまった彼女。部屋の中を見回しますと、出しっぱなしのキャンバスに、画材一式。手入れが大切な筆の類は一応洗ってはあるものの、しまわれてはいないあたり、芸術家な彼女としてはウッカリといったところでしょうか。床には精力的な芸術活動の痕跡がありありと残り、ベッド脇の籠には、昨日身に着けていた服と白衣が、くしゃくしゃになって放り込まれています。
　もっとも、イーゼルに立てかけられたキャンバスには、そんな昨夜の奮闘の成果が朝日によって照らし出されて、きらきらと輝いています。くるりと丸まって眠る、仲睦まじい親子の猫……なんとも微笑ましく、見ようによってはある種の神々しさまでも感じられる、月詠渾身の水彩画です。つまりはこれを完成させるために、昨日の彼女は遅くまで、創作に没頭してしまったのでした。
「…………ん。む」
　むくり。あっ、起きた。ベッドで身を起こした月詠は、しばしぱちぱち、ぱちと目を瞬かせてから、ゆっくりと首を回して、
「やあ。ぼく、ツクヨみん！」
　カメラ目線で、何事かを口走りました。見てる、半目でこっち見てる！
　ちなみに本日彼女がお召しの寝間着は、ネコミミフードのついた青い着ぐるみパジャマ。ご丁寧に、お腹にはポケットまでついています。
「良質な睡眠には、快適な寝具が必要不可欠。そんな時には、はい！　獏の枕～」
　ぱんぱかぱんぱんぱーん！　とかなんとか、ファンファーレが聞こえてきそうな調子で、愛用の枕を頭上に高々と掲げまして、
「みっちりと綿を詰め込んだ、私の手作りだよ。そして、この布団は羊毛１００％！　おなじみの羊数え歌は、ＳＨＥＥＰとＳＬＥＥＰをかけたものだから、バッチリ通じるというわけ。悪夢を食べる獏の枕にふかふかウールのお布団で、快眠快適な夜をお過ごしくださｚｚｚｚｚ」
　ぱたん。寝た！　枕を抱きしめたまま、月詠は二度寝モードへ突入！
　結局、彼女がスッキリ起き出してきたのは、この後１時間ほどもすやすや、惰眠を貪ってからでありました。

　もう一度開いた目を、ぱちくり。
「……うん。少し寝すぎたな」
　だるだるだるーん。シーツを半ば引きずりながらベッドを抜け出すと、まずはアトリエとリビングを繋ぐ電子在室表示板を、『就寝中』から『在室中』へと切り替えます。こうすることで、星ヶ丘寮に務めるメイドさんたちに、彼女が起床したことを伝えることができるのです。
　さて、とつぶやいて、部屋の中をぐるりと見回した月詠は、
「今日の活動は、片付けからだな……」
　諸々、言いようによっては惨状と呼べなくもない室内の有様に、ため息をひとつ。
　とはいえ、まずは腹ごしらえ。キッチンへ向かうと、ふわわっとあくびを噛み殺しながらもフライパンを火にかけ、十分に熱したら油を引き、ベーコンと卵を投入。焼ける間に、トーストとサラダ、あたたかいコーンスープを用意して、食卓へ。
　かりかりに焼けたベーコンと卵をまとめてほおばり、こんがりトーストをさくり。ほうっ、と深く穏やかな息を吐いたところで、窓から差し込む日の光によって、完成させたばかりの絵が見事に演出されているのに気づき、思わずぽつり。
「ああ。良い朝だ」
　どこまでも豊かで優雅な、とある朝の風景でありました。

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