【卒業生を送る会】寝子晴れっ、跳躍っ、新たな一歩でにゃーっ！｜リアクション

【卒業生を送る会】寝子晴れっ、跳躍っ、新たな一歩でにゃーっ！

●進路と眼鏡と白衣だにゃーっ！

　北風貴子は、矢萩咲とともに佳奈の剣舞と、巌と浅井先生の一本勝負を見ていた。
　剣舞には感動したし、一本勝負で萌のパンティが露わになった場面は、「破廉恥な」と咲とふたり風紀委員気質を発揮してのち、「もう私たち風紀委員じゃなくなるのよね」と笑いあった。
　舞台の上のマットを片付けるためにできた空白の時間、咲は改まったように貴子に言った。
「北風さん、お疲れ様。……貴方と一緒に風紀委員として活動できた事を咲は嬉しく思うわ」
「私もよ、矢萩さん」
「大学でも頑張ってね。私も頑張るわ」
　木天蓼大学経済学部に進学予定なの、というと、貴子はちょっと目を瞠った。

「実は私も、木天蓼大学の教育学部に受かったの。島外の公立大も受けてたんだけど、そちらは落ちてしまって……マタ大に通うことになると思う。また大学でいっしょに風紀委員する？」
「いい考えだけど、……大学に風紀委員なんてある？」
「ないかしら。もしそうなったら、きっと私たち大いに煙たがられるわね」
　ふふっとふたりは笑いあう。

　そのとき矢萩咲の視界の端を、胡乱路秘子が横切った。咲は貴子に手を振って秘子を追う。
「胡乱路さん」
　秘子は声に振り返り、スカートの裾をちょこんと持ち上げた。

「あら……矢萩さん。ご卒業なんですね。おめでとうございます」
「今日は祝ってくれてありがとう。卒業しても咲達は友達だから。いつでも頼ってくれていいよ」
「んふふ……ありがとうございます」

◇

　貴子が咲と別れ、桜のゼリーを口に運ぼうかとしていたときだった。
　伊賀解理が白衣をはためかせながら直進してきて、貴子の胸に弾丸みたいに飛び込んできた。
「いいんちょー」
　見上げる解理は涙目だ。
「あらあら、どうしたの伊賀さん」
　解理は口をきゅっと引き結ぶと、一番最初に言おうと思っていたことを口にした。
「卒業おめでとうございます」
「ありがとう」
　気難しい貴子の、珍しい笑顔。解理の胸に、学校で話せるのはこれが最後かも知れないという思いが波のように押し寄せる。
「先輩。卒業したら進学ですよね？　どこに行くんですか？」
「今、矢萩さんにも話していたんだけど、マタ大よ」
「何を勉強するんですか？　あ、その、僕も進級するわけだし、そしたら進路の事も考えなきゃいけない。僕自身どうしようか決めかねてるけど、先輩の話を聞いて参考にしたいな、と思って」
「教育よ。教師になりたい。それが夢なの」
「いいんちょがせんせい……」
　スーツをびしっと着こなして、その上から白衣なんか着て、眼鏡の蔦をすちゃっと押し上げるような女教師を想像する。いろんな意味で教えを請いたいかもしれない。
「でも、実感がわかないな。僕が進級するのも、先輩が学校からいなくなっちゃうのも。なんだか、僕にとっての日常がぽっかりなくなっちゃう気分だ」
　それぐらい先輩がいて当たり前だと思ってたからかな……そう思った途端、先輩との思い出がどっと脳裏に押し寄せて来て、鼻の奥がつんと痛んだ。
　涙が零れる。
「伊賀さん……」
「ダ、ダメだなぁ。泣かずに笑顔で、送り出すって決めてたのに……」
「今生の別れってわけじゃないわ」
「……でも、やっぱり先輩がいなくなっちゃうなんて、嫌だよぉ！　寂しいよぉ！　もっと一緒にいたいよぉ！」
　解理の顔がくしゃくしゃになった。
　涙が溢れてくる。どうやっても止めようがない。
　貴子は泣きじゃくる解理を抱き寄せ、肩を何度も擦ってくれる。その感触に甘えて、解理は堪えていたものを吐き出すように号泣したのだった。