【卒業生を送る会】寝子晴れっ、跳躍っ、新たな一歩でにゃーっ！｜リアクション

【卒業生を送る会】寝子晴れっ、跳躍っ、新たな一歩でにゃーっ！

●パントマイムでパパパン☆だにゃーっ！

「はーい。フリータイムの最後は、ピエロさんによるパントマイムショーなのー」
　明里の声に呼ばれて、ピエロの扮装をした恵御納夏朝が舞台に上がる。
　左手に嵌めた猫パペットのハルくんといっしょに一礼すると、「どうする？」「そうだ、あれをやろう」という雰囲気でぱくぱく楽しい無声のお喋り。
　だぼだぼズボンのポケットから猫っぽい形をしたお手玉を取り出し、くるくる宙に跳ね上げる。
　お手玉がぽーんと見当違いのところに跳んでしまっても、気づかないふり。
　見えないお手玉があるかの如く振る舞って、頭に当たったかのようにいてっと仕草したり、拾って進むと見えない壁に当たったかのように跳ね返ったり……と、おどけながらパントマイム。
　その都度、ハルくんが「だめじゃない」「ほらほら」と夏朝にツッコむ仕草をするのが可愛らしくて、見ている人たちの表情も和む。
　演じながら、夏朝は祈った。
（先輩達にはそれぞれの『これから』がある。先輩達の未来に、幸あれ）
　巨大なクラッカー抱えるような仕草をする。
　これは、トリガー。夏朝は素早く左右に目をやる。
　会場の中に紛れた一二年生の協力者たちが、ポケットに手を忍ばせながら作戦開始の合図を待っている。
（いくよ！）
　クラッカーの紐をひく仕草。
　と、同時に。

　ぱぁん！！

　会場から一斉にたくさんのクラッカーの音が鳴り響いた。
　無音のパントマイムだとばかり思っていた三年生たちは、驚いて目を見開いている。
　驚きの余韻の覚めぬ間に、在校生たちは大声で叫ぶ。

　「「「先輩達、卒業おめでとうございまーす！！」」」

　わあっと起こる喝采。
　クラッカーも祝いの言葉も、夏朝があらかじめ仕込んでおいたサプライズだった。
　これが締めとばかりに舞台の上で笑顔の夏朝がハルくんと一緒に叫ぶ。

「先輩方も、皆も……未来に向かって……にゃー！」

「「「にゃー！！」」
　ノリのいい卒業生たちが一緒に拳を突き上げてくれた。
　驚きは、温かい拍手に変わっていた。

「うっうっうっ。あかりはちょっと感動しちゃったのなの。夏朝ちゃん、ハルくん、ありがとうございましたー。それではこれでフリータイムを終了します。続いては、お待ちかねのダンスタイムですのよ！」

◇

　夏朝とハルくんが舞台から下りるのとタイミングを合わせ、鴻上彰尋は愉快なパントマイム用の音楽のボリュームを絞った。それから、舞台下に待機していた生演奏バンドの準備が整っていることを確認する。
　吹奏楽部を中心とした有志による今日限りの音楽バンドだ。
　グランドピアノの前に座って譜面の位置を整えていた呉井陽太が、「準備ＯＫだよぅ」と視線を上げる。
　彰尋が完全に音を絞ると、陽太は鍵盤に手を置いた。
　これまでとは打って変わって、艶やかなワルツの生演奏が始まった。