【卒業生を送る会】寝子晴れっ、跳躍っ、新たな一歩でにゃーっ！｜リアクション

【卒業生を送る会】寝子晴れっ、跳躍っ、新たな一歩でにゃーっ！

●剣舞とお礼参りだにゃーっ！

「旧市街の剣道道場の跡取り娘、伊藤佳奈さんによる剣舞ですなのー！」
　明里が一番手を紹介するや、会場からわあっと拍手が起こった。
　照明係の優木遥斗が、同じ剣道部の仲間にスポットライトを向ける。
　白の道着に緋袴、白襷に白鉢巻きを締め、いつもより凛とした雰囲気を纏った佳奈が登場する。
　つつ、と腰を落したまま摺足で動いて、手にした模造刀を鞘から居合抜きする。
「たあ、とう！」
　祝事の吟の曲調に合わせて、右に払い、左に払い、指先、剣先にまで気を配る。
（お爺ちゃんに教わった剣舞。あまり人前でやる機会もなかったし、上手にできてるか、こんなので先輩たちが喜んでくれるかは解らないけど、自分にできる精一杯のお祝いの気持ちを込めて一生懸命踊らせてもらうね）
　どん、と足を踏み鳴らし、剣を頭上に捧げ持てば、その荘厳さに会場はしんと静まり返る。
　佳奈は緋袴に風を孕ませ、その場で一度、身を翻す。
　動きを後追いするように靡く、白鉢巻きの美しきこと。
「やっ！」
　見えぬ敵に刀を振り下ろし、成敗したと言わんばかりに一歩下がって片膝をつくと、吟の終わるのと時同じくしてゆっくり剣を鞘に収める。
　ふぅ。
　何とかうまく行った。
　佳奈の表情に、いつもの柔らかさが戻る。
　立ち上がって深々と一礼すると、佳奈は腹から祝辞を述べた。

「卒業おめでとうございます！」

　大きな声は会場中に響き渡り、再度の礼に、温かくも大きな拍手が沸き起こった。

◇

「伊藤佳奈さん、ありがとうございましたなの！　あかりも、えいやー！　ってやってみたいですなの！」
　明里は剣を振り回す真似をして、くるくる回ってばたんと倒れた。
「えへへ。なかなか難しいですなの。さて、次は――」
「ガッハッハ、ワイの番じゃああ！！！」
　盛大な笑い声とともに舞台に駆け上がったのは、鬼河内巌と妹の鬼河内萌であった。
　巌はびしっと、体育の浅井幸太先生を指さす。遥斗が素早く浅井先生にスポットライトを当てる。
　突然名指しされスポットライトを浴びせられた浅井先生は、警察に見つかった強盗みたいに動揺して、
「え、え？　何？」
　ときょろきょろした。
「浅井先生！　ワイは、プール開きで先生に投げられたことがどうしても心残りなんじゃあ！　あれは見事な背負い投げじゃった。だが投げられて終わりじゃ鬼河内の名折れ。泣きの一本勝負！　お願いするんじゃあ！」
　事態を飲み込んだ浅井先生は、「わかった」と挑戦を受ける王者の顔になって舞台に上がって来た。
　実行委員たちが素早く舞台にマットを用意する間に、先生はこきこきと首を回して準備体操をする。

「一本だけだぞ」
「あれから色々と鍛えたし、カレーの腕も上げたし、今度は勝てるはずじゃ！」
「カレーは関係ないだろ」
　浅井先生は苦笑しようとした。が、巌はその隙を与えなかった。
「オオォォォォ！！」
　雄たけびを上げて突進する。浅井先生が受け流そうとしたそのとき、巌はカクッと身を捩った。
「浅井先生に直線的な攻撃はダメだっちゅうのは覚えたわい！」
「おいおい」
　巌のフェイントを浅井先生は辛うじて避ける。
「お兄ちゃん頑張ってー！」
　声援を送る萌。なんとしても浅井先生から一本取りたい巌はここで、思わぬ行動に出た。
　なんと、妹のスカートをぺらっと、大胆に、捲ったのである。
　萌のちいさなお尻を包み込んでいる安定の縞パンが露わになる。
「どうじゃ！　ＪＫパンチラじゃあ！」
「な……卑怯な……」
　若い浅井先生に、パンティに動じないだけの度量はなかった。
　目を皿にして真っ赤になった浅井先生の胸倉を掴むと、巌はぐいっと引き寄せる。
「うわあ！」
　叫び声と同時に浅井先生の体が宙に舞った。巌が一本背負いを決めたのだ。
　どぉん。
　先生の体が床に打ち付けられる。音は派手だが、受け身を取ったのはさすがというところか。
「がっはっは！　おなごのパンティごときに惑わされれるとは、先生まだまだ修行が足りんのう！」
「う……無念」
　差し出された巌の手を取って浅井先生は立ち上がる。
　こうして一本勝負はがしっと交わされた男同士の握手で綺麗に終わ……るワケがなかったのである。
　真っ赤になった萌がめらめらと背中から怒気を立ち昇らせている。
「おおおお兄ちゃん～～～！　何してくれるのよおおおおおお！！！！」
「ん？　なんじゃい？」
「なんじゃい、じゃなああああいい！！　バカーっ！！」

◇

　舞台の上では萌が巌をポカポカとタコ殴りに殴っており、腰を擦る浅井先生と会場から笑い声が上がっている。だいぶ苦笑に近い笑い声だが。出し物を順に撮影していた八神修もまた、マイクが声を拾ってしまわないよう注意しながら苦笑した。修がカメラを回しているのは新聞部としても記録しておきたかったからだ。
（伊藤の剣舞は素晴らしかったな。鬼河内先輩の一本背負いは見どころだが……パンティは映ってたらあとで編集して消しておこう）
　ぽかぽか殴りされながら、巌が舞台から下りてくる。
　修は巌に卒業生としての一言をもらおうとマイクを向けた。
「先輩、良かったら一言お願いします」
「ようやく先生から一本取ったわい！　勝利のカレーじゃあああ！　っていてて！　萌～～～」
「知らないよっ！」
「はい。ありがとうございました」
　こう言ってにこやかに切り上げる以外に、修に何ができただろうか。あとは兄妹の問題である。

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