増えるまたたびメイトの謎｜リアクション

増えるまたたびメイトの謎

　――駄菓子屋『ねこや』前
　この日の『ねこや』は、いつもに比べより賑やかになっていた。店の軒先では、讓が弥栄の妹・晴に絵本を読んであげていた。こうしながらも、讓は懐かしい気持ちを覚えていた。
（昔は、よくあいつに読んでやってたな……）
　脳裏によぎった異母妹との思い出で胸の中がくすぐったくなり、小さく微笑むのであった。
「よーし、にゃにゃにゃがおー！　がおー、一緒に晴ちゃんのお守りをするのだっ」
　ちょっと離れた所で、真央が叫び、両手を丸める。彼女のろっこん『にゃにゃにゃがおー！』はこうする事で三毛猫のがおーを呼び出す事が出来るのだ。真央はふんわりとした三毛猫を晴に渡すと、晴は嬉しそうに抱きしめた。
「あれも『ろっこん』なんですか？」
　その光景に弥栄が目を丸くしていると、御剣刀が小さく頷いた。
「ああ。発動する条件も、効果も一人一人違うぞ。俺の場合は……」
　と、意識を集中させ、撃鉄が落ちる瞬間をイメージする。阿吽の呼吸とも言うべき仕草で円が幾つかのボールを投げる。それが地に着く前に、あっと言う間に拾い上げる刀。彼のろっこん『加速』のなせる技である。あっという間の出来事に、弥栄は思わず「すごい」と呟く。円は小さく笑う。
「弥栄くんの場合は、頑張りすぎて疲れると発動しちゃうんだ。妹さんがいて張り切っちゃう気持ちはわかるけど、倒れたら元も子もないよ」
「貴方が無理をして倒れたら、悲しむ人が居る事を忘れないで欲しい」
　讓が、がおーを抱っこした晴を連れて言葉をつなぐ。傍らでは真央もまた猫のような笑みで頷いていた。
「そうなのだ。やっぱり、元気な方がみんな安心するのだ。ね、晴ちゃん、がおー」
　その言葉に、弥栄も小さく「そう、だね」と笑顔で返し、購入した駄菓子を口にする。昼休みより更に肩の力が抜けた様子に、誘った翡翠も少し安堵する。
「なんだか、これでうまくいきそうだね」
「ぬん♪　先輩の顔色、そういえば良くなったように思うよ」
　日向ぼっこをしながら様子を見ていた真辺伸幸が、のほほん、とそういった傍から、維都月茉菜が弥栄へこんな質問をしていた。
「渡辺先輩、またたびメイトの事だけど……他の味も出せるの？」
「……えっ？！」
　思わぬ問いかけに、弥栄は驚いたようだ。伸幸はのんびりと、こう言う。
「ぬーん、俺はチョコ味も好きだねぇ。フルーツ味は後味すっきりで美味しいけど」
　出せるのかな？　と興味深々に見つめる茉菜に、弥栄はいささか困惑気味になる。『もれいび』としての自覚が芽生えたばかりの弥栄には解らなかったようだ。
　食べ比べがしてみたかった、と茉菜が言うと、修と讓がそれぞれチーズ味とチョコ味を持っていた為、分けてもらえた。食べてみると、チーズ味は素朴で暖かな風味を、チョコ味はしっかりとした甘味と僅かにしっとりとした食感を覚え、少し満たされたような気がした。
（またたびメイトって美味しい！　なんだか癖になりそう……）
　そんな事を考えていると、聞き覚えのある柔らかい声がした。
「またたびメイトはぁ、栄養補助食品なのでカロリーには気をつけてくださぁい」
　顔を上げると、牡丹と天野がいた。当番を終えた彼女は『ねこや』を訪ねてくれたのだ。天野は弥栄にバイトの件で用事があり、牡丹と共にここに来ていた。集団が苦手な天野ではあるが、『ねこや』でのんびりする一同を見ていると、少し自分も安らぐような気がする。
「けっこう、のんびりしていたようだね」
　天野の声に、弥栄も、みんなもいつもよりちょっと柔らかい笑顔で答えるのだった。

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