増えるまたたびメイトの謎｜リアクション

増えるまたたびメイトの謎

「やっちゃん先輩発見なのだ！」
「他に休んでいる人もいるので声のトーンを落としたほうがいいですよ」
　真央が両手を挙げて喜んでいると、保健委員である添木牡丹が釘を指す。あちゃー、と苦笑する真央の横から、猫村翡翠がクラスメイトを見つけ、声をかける。
「あれ？　修もいたんだ！」
「猫村と後木か？　それにみんなもどうしたんだ？」
　聞き覚えのある声に、向かいのベッドに腰掛けていた八神修もまた顔を上げる。ちなみに、またたびメイトが３箱抱えられていた。
「俺達はこの先輩に用があるんだ」
　刀がそう言って事情を説明すれば、翡翠と修は「なるほど」と、理解したようだ。当の本人である弥栄は不思議そうに集まってきた面々を見、わずかに首をかしげる。
「……俺に、用ですか？」
「うん。なんでも、家の手伝いとか妹さんのお世話とか率先してやってるって聞いたんだ。大変そうだけど凄いなって思って」
　そう口にしたのは円だ。彼女の言葉に、弥栄は「別に凄い事では……」とまた首をかしげる。が、今まで両手を組み、目を閉ざして祈っていた茉菜が笑顔で言った。
「家の手伝いが自然とできる事は、とても素敵な事だと思うの」
「……そ、そうかな？」
　その途端、弥栄の表情が少し明るいものになった。どうやら、茉菜のろっこん『大天使の加護』の効果があったらしい。翡翠は弥栄の顔を見、小さく頷くと口を開いた。
「あたし、先輩が牛乳配達をしてるとこ、見た事あるよ。あんなに朝早く起きてがんばってるんだね」
「早く動かないと回りきれないんです。今、俺と父さんの２人でやっていまして」
　翡翠の言葉に苦笑しつつ答える弥栄だったが、先ほどよりも肩の力がぬけたような声色だった。茉菜のろっこんのおかげで弥栄は警戒を解いたようだ。
「そういえば、アルバイトの人が辞めたとか聞いたな」
「みんな、就職や進学で引っ越しちゃって……。あと、俺と妹の分のお弁当も作らないといけないから……」
刀が思い出したように呟けば、弥栄は苦笑する。その話を聞きつつ、牡丹がこっそりと利用記録を見れば、確かに４月頃から弥栄が保健室に来るようになっていた。
（まだ、体が慣れていないのかもしれませんね）
　話している時の楽しげな表情から、本人は楽しんでやっているのがよく分かる。けれども同時に、どこか張り切りすぎているような気もしてしまう。
（……この先輩は、やっぱり、昔の俺に似ているな）
　様子を見ていた譲は、口の中にほろ苦い物を覚えつつ、僅かにため息を付いた。少し離れた所で牡丹も心配そうに弥栄を見つめ、口を開く。
「お家の事や妹さんの事が大事なのはわかります。けれど、健康を害してご家族に心配をかけるのは、本末転倒ですよ」
「そうそう。息抜きも大切ですよ、先輩」
　同意するように頷く譲。後輩や保健委員にそう言われ、弥栄は「はい……」と少し反省をしているようだった。