Nekojima Nyantasy ～晴雲の章～｜リアクション

Nekojima Nyantasy ～晴雲の章～

■チャプター８：真実の先にあるもの
　魔王との戦いは困難を極めた。
　傷付けるたびに自らを極度に再生させ、時には包帯を通じて傷を相手に移すという牡丹のスタイルは、力押しを得意とする亮や流にとって天敵だったのだ。
　勿論、腕っ節一辺倒のイデアや戦闘はからっきしのステイシーも苦戦を強いられ、今や全滅寸前といった所だった。
　剣を杖にして膝を突くイデア。
　魔法銃の弾も底をつき、素手で挑むも限界にきている亮。
　魔力が無くなって白目を剥いている流。
　やたら高価な水晶がかち割れて絶望しているステイシー。
　もはやこれまでか。
　と、思われたその時。
「待たせたな、皆！」
　魔王牡丹の背後から魔法弾が高速で連射された。
　振り向き、腕でガードする牡丹。
　素早く飛び込んだ都がナイフを滑り込ませ、ガードをほんの僅かに解かせる。
　そこへ、櫻が渾身の突きを食らわせた。
　牡丹を貫く刀が虹色に輝き、彼女が持っていた治癒の力を失わせる。
「そんな……っ」
「武道、櫻、来てくれたのか！」
「あと都も！　っていうかなんで！？」
「きみら死んだらイタズラできなくなるし」
　都はニヤリと笑い、牡丹に毒を塗ったナイフを投擲する。
　しびれる毒をうけて膝を突く牡丹。
「今だ、イデア！」
　武道の叫びに応え、走り出すイデア。
　牡丹めがけて大上段に振り上げた剣を、全力で叩き込んだ。
　ぐらりと揺らぐ牡丹。
　仰向けに倒れ、そして目を細めた。
「まさか私が負けるなんてね。けど、いいわ。これで解放される」
「解放？　一体何から……」
「神々の、ゲームよ。次は、あなたたちの誰が……魔王になるのかしらね」
「どういうことだ、それは！」
　詰め寄るイデアを制するように、上から声がした。
「俺から説明しよう」
　魔王軍幹部、修である。
　魔法でゆっくりと下りてきた修は、映像を壁に投影しながら語り始めた。
「俺たちは、先代の魔王を倒すために城へ挑んだ勇者のパーティーだったんだ。俺は魔術師、彼女は僧侶。犠牲を払いながらも魔王を倒したけれど……待っていたのは平和なんかじゃなかった」
　映像にはかつての光景が映し出されている。
　そして、魔王城の下に広がる世界樹が映ったところで亮が身を乗り出した。
「世界樹の実が……ない、だと！？」
「ずっと前に枯れかけているんだ。この世界の軸である世界樹は、もう一つの世界に浸食され、今や崩壊の一途をたどっている。本当の敵はこの先にいるんだ。けれど王国は戦争需要を欲して第二世界の存在を信じなかった。主張した俺たちを新たな魔王と認定して、討伐運動を起こしたんだ」
「それで、今の戦争が起きてるっていうのか……？　俺の家族や町は、そんなことで……」
　崩れ落ちるイデアを、修は無表情に見下ろした。
「俺たちは魔物を統率してこれに挑んだ。王国を潰せば世界中に改めて呼びかけることができると信じてね。けど、それは先代の二の舞に過ぎなかったんだ。知ったときには、もう遅かった」
「……待って、そこまで話すってことは」
　武道が、何かを察して手を翳した。
「俺たちに、『次の魔王になれ』って言ってるの？」
「強制はしないよ」
「避けようがないことを強制っていうんだよ」
　首を振り、覚悟を決めたように目を開く武道。
「わかった。けど、魔王にはならない。この世界の敵が向こう側に居るのなら、迎え撃つだけだ。幸いにも王国も魔王も滅んだわけだしな」
「……助かるよ」
　修はそう言って、少しずつ身体を粒子に変えていく。
「俺の身体はもうもたない。後のことを……世界を、頼んだ」

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