ボウリングしようよ！｜リアクション

ボウリングしようよ！

「サンマさん、よろしくお願いしますね！」
　対決の順番が回ってきて、綾花と珪はサンマ氏と握手をする。
「練習の成果を見せてあげようね」
「はいっ」
　珪のウインクに綾花もにっこりと笑顔を返す。
　残念ながらストライクは取れず、猫のぬいぐるみも獲得できなかった。でも感覚はなんとなくつかめたし、さっきよりもうまくできそうだ。
（それに、珪先生と一緒の時間が過ごせたし）
　マンツーマンで教わったりした時間を綾花が思い起こしていると、サンマさんが投球に入った。
　瑠樹たちとの対決と同じく、まずは床と平行になる姿勢を取って、ピンを見据えている。
　そして立ち上がると、モーションに入った。
（サンマさん、ボールと一緒にレーンを滑りそうだけど……大丈夫かな？）
　堂々たる足運びのサンマさんだが、そこから何をしでかすか分からないのもサンマさんの特徴だ。
　結果は、堂々と本日数十回目のガーターが生まれる。
「……見えてるんでしょうか？」
「もしかしたら、投げる時は天井しか見えてないかもしれないね」
　珪も綾花に応えつつ、自らのボールをもつ。
「ある意味すごいけど、チャンスだ。今度こそぬいぐるみを当てよう」
　そう言って一緒に頑張ろうとしてくれる珪の言葉が、綾花にはなりより嬉しい。
　綾花も勇んで、サンマさんに勝つべく気合いを入れた。

　――と。
「う～ん、上手くはなってるはずなのに」
　ゲームが進むにつれ、展開は拮抗状態になっていった。
　ガーターはあんまりないが、取れたストライクは１回だけ。スペアもとれたりとれなかったりで、ちょっとがっかりな結果だ。
「ちょっと誤算だったね」
　珪も、ボーリングの球を持つのは久しぶりだったようで、腕の疲れがコントロールに影響しているようだった。
　それは、綾花も同じだ。
　一方のサンマさんは時折良いスコアが出たりして、勝負自体はどうなるか分からない。
「頑張ってるサンマさんは尊敬するけど、勝ってみせます」
「綾花ちゃん、頑張って！」
　好敵手と戦ううちに連携が良くなってきて、綾花は自然と珪とタッチを交わしてピンの前に立つ。最後の投球だ。
（ここで8ピン以上なら――）
　珪を振り返り、彼の頷きに後押しされるように投げる。
　勝つ望みを託して投げたボールは。
「――わっ、やりました！」
「おめでとう！」
　綾花は珪とハイタッチを交わした。満面の笑みで彼の手を握り、振る。
　ストライクだ。
「……珪先生、今日は楽しかったです」
　サンマさんから記念の猫ぬいぐるみも受け取り、綾花ははにかむ。
「有り難うございました」
「僕のほうこそ。お役に立てて良かったよ……あ、でも」
「？」
「最後の一投で僕も負けちゃったから……もしまた機会があったら、今度は教えてもらおうかな」
「そんな、教えるなんて……！」
　手を振って慌てつつも、また珪と一緒にボーリングしたいなと思う綾花。
　今はただ、一緒に過ごせるこの時間が嬉しかった。